何が発表されるのか
ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq: GILD)は2026年10月22日、米国肝臓病学会(AASLD)が主催するThe Liver Meeting 2026(11月5〜9日、コロラド州デンバー)で、原発性胆汁性胆管炎(PBC)と慢性D型肝炎ウイルス(HDV)感染症に関する新たな臨床データおよびリアルワールドエビデンスを発表すると発表した。採択された演題は21件。内訳には、Livdelzi(セラデルパル)10mg開発プログラムの第3相試験の速報(レイトブレイキング)演題と、慢性HDVに対するHepcludex(ブレビルチド-gmod)2mgおよび8.5mgの長期・リアルワールドデータが含まれる。
PBC領域の中心となるのは、速報演題として発表される第3相IDEAL試験の結果(LB#5007、11月8日17時00分〜17時15分、口頭発表)である。同試験は、ウルソデオキシコール酸(UDCA)投与中またはUDCA不耐の成人PBC患者のうち、アルカリホスファターゼ(ALP)上昇が基準値上限の1〜1.67倍と比較的軽度で、これまで研究が十分でなかった集団を対象に、セラデルパルが複合的なALP正常化に与える影響を評価したもの。発表資料は、ALP正常化が長期転帰との関連で研究が続く「認識が高まりつつある治療目標」であると位置づけている。
このほかPBCでは、最長5年間のセラデルパルの有効性・安全性(#1170)、オープンラベルASSURE試験における臨床的に意義のある疲労の改善(LB#5040、速報)、5年間の腎機能の推移(#1137)、血清プロテオーム解析による炎症・線維化経路への作用(#1164)、そう痒に関わるサイトカインIL-31の低下(#1233)などが並ぶ。リアルワールド研究としては、二次治療の適格性やステップアップに影響する要因(#1170、#1221)、治療反応性別のQOL(#1171)、米国における医療資源利用とコスト(#1182)、服薬アドヒアランスと医療利用の関連(#1313)が示される。
背景にある二つの疾患
HDV領域では、ブレビルチドの併用ウイルス学的・生化学的奏効に関する96週の有効性所見(#3203)と、臨床的に有意な門脈圧亢進症の有病率および48週治療の影響を第2/3相試験の統合解析で検討した演題(#3243)が挙げられている。さらに米国のリアルワールド研究として、慢性B型肝炎患者におけるHDV検査率の低さ(#4080、米国の保険請求データ分析)と、商業保険加入者コホートにおける疾患進行(#3216)が取り上げられ、早期発見と長期管理の強化の必要性が指摘されている。非侵襲的線維化検査の推移(#3215)や診断能(#3236)、治療後のHDV RNAを用いた代替エンドポイントに関する系統的レビュー・メタ解析(#3202)も含まれる。B型肝炎では、PAGE-BスコアとFibrotestの併用による肝細胞がんリスク層別化(#4089)が発表される。
ギリアドのインフレーション領域臨床開発担当シニアバイスプレジデント、Swati Tole氏は「治療選択肢が進化するにつれ、希少肝疾患とともに生きる人々に対する我々の目標も進化すべきだ」と述べ、IDEAL試験の速報結果に加え、生化学的な疾患活動性の指標を超えて奏効の持続性、症状、長期的な疾患管理の実態を探るデータを示すとしている。
Livdelziは経口のPPARデルタ作動薬(デルパー)で、米国ではUDCAへの効果不十分な成人に対するUDCA併用、またはUDCA不耐例への単剤投与としてPBCに適応がある。この適応はALP低下に基づく迅速承認であり、生存率の改善や肝代償不全イベントの予防は示されていない。承認の継続は検証試験での臨床的ベネフィットの確認に左右される可能性がある。非代償性肝硬変の患者への使用は推奨されていない。安全性では、骨折がLivdelzi群の4%に発現し、プラセボ群では発現がなかったこと、用量依存的なAST・ALT上昇が報告されている。
業界にとっての意味
今回の演題構成から読み取れるのは、ギリアドが「承認取得後」の評価軸を広げようとしている点である。IDEAL試験が対象とするのはALP上昇が1〜1.67倍ULNという、これまで研究が手薄だった層であり、治療介入の対象範囲をどこまで広げられるかを問う内容といえる。同時に、ALP正常化という生化学的指標に加え、疲労やそう痒、QOL、医療コスト、服薬アドヒアランスといった患者側・医療システム側の指標が並列で提示される。迅速承認の根拠がALP低下である以上、長期転帰との接続をどう示すかが課題として残る構図が、発表資料自体からも見て取れる。
HDVでは、治療データと並んで「検査率の低さ」が独立した演題として立てられている。薬剤の有効性以前に、診断されていない患者が存在するという前提に立った発表であり、早期診断と二次治療へのステップアップの遅れという、PBC側のリアルワールド研究と共通する論点が置かれている。希少肝疾患領域では、薬剤の性能と同じ重みで、診断・紹介・治療変更の流れをどう動かすかが問われる段階に入りつつあることを示す演題構成だ。