何が決まったか
アレクシオン(アストラゼネカ・レアディジーズ)は2026年10月22日、同社のユルトミリス(一般名:ラブリズマブ)が、疾患進行リスクを有する成人の原発性IgA腎症(IgAN)における蛋白尿の低減を適応として、米国で承認されたと発表した。蛋白尿の低減に基づく迅速承認(accelerated approval)であり、IgANに対して承認された初めての、かつ唯一のC5補体阻害薬となる。
重要な留保がある。本適応は蛋白尿の低減に基づくものであり、ユルトミリスがIgAN患者の腎機能低下を遅らせるかどうかは確立されていない。本適応の承認継続は、進行中の第III相「I CAN」試験における臨床的ベネフィットの検証・記述を条件としうる。同試験は継続中で、主要評価項目である106週時点の推定糸球体濾過量(eGFR)のベースラインからの変化を評価し、そのデータをFDAの通常承認(traditional approval)の裏づけとすることが想定されている。
根拠となった数字
今回の承認は、I CAN試験の事前規定された中間解析の良好な結果に基づくFDAの優先審査(Priority Review)を経たものだ。
中間解析では、34週時点の24時間尿蛋白クレアチニン比(UPCR)のベースラインからの変化について、ユルトミリス群が46.6%の低下(95%信頼区間:39.0%、53.2%)を示したのに対し、プラセボ群は5.6%(95%CI:-4.9%、15.0%)だった。プラセボ調整後の治療効果は43.4%(95%CI:33.5%、51.8%、p<0.0001)。
蛋白尿の低下は速やかで、ユルトミリス群では10週という早い時点で36.7%(95%CI:30.2%、42.6%)が観察され(プラセボ群は8.5%、95%CI:0.5%、15.8%)、34週まで持続した。結果は、人口統計学的背景、ベースラインの臨床的特徴、重症度が異なる各サブグループを通じて一貫していた。
安全性プロファイルはユルトミリスの既知のプロファイルと一致し、おおむね良好な忍容性を示した。新たな安全性の懸念は確認されていない。中間解析で報告された主な有害事象は、ユルトミリス群で上気道感染(11.3%)、鼻咽頭炎(9.2%)、注入に伴う反応(8.4%)、プラセボ群で上気道感染(10.2%)、鼻咽頭炎(9.0%)、高血圧(6.6%)だった。
投与法は、負荷投与の後、成人では体重に基づき8週間に1回の静脈内投与となる。
背景:I CAN試験とIgANという疾患
I CAN(ALXN1210-IgAN-320)は、疾患進行リスクを有する成人IgAN患者を対象に、ユルトミリスの有効性と安全性を評価するグローバル第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。被験者は、スクリーニング前の3カ月以上にわたり標準治療に沿った併用治療を安定して受けていることが条件とされた。
参加者は1対1でユルトミリス群とプラセボ群に割り付けられ、計106週間にわたり静脈内投与を受ける。治療群は1日目に負荷投与を受け、15日目から8週ごとの体重基準の維持投与を106週間の盲検期間を通じて継続する。無作為化対照期間を完了した患者には非盲検アクセス期間への移行オプションが設けられた。主要評価項目は34週時点の24時間UPCRの変化(中間解析)と106週時点のeGFRの変化(最終解析)の2つ。最終解析での主要な副次評価項目には、34週時点での24時間UPCRのベースラインから50%以上の低下、10週時点の24時間UPCRの変化、106週までの持続的な30%以上のeGFR低下までの期間、106週までの複合腎イベント初回発現までの期間が含まれる。試験は北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアの28カ国から約510人の登録を目指して設計された。
IgANは腎臓の希少な炎症性疾患で、慢性腎臓病を経て末期腎不全(ESKD)に進行しうる。異常なIgA蛋白から生じた免疫複合体が腎臓に沈着して障害を引き起こし、この沈着が補体系を活性化させ、終末補体による炎症を招く。結果として、血液を濾過する糸球体の細胞を含む腎臓の重要な部分が損なわれる。米国では20万人超が罹患しており、尿蛋白の上昇または腎機能低下を有するIgAN患者のおよそ半数は、診断から10年以内にESKDへ進行する高リスク群にあたる。
中間解析の結果は2026年の欧州腎臓学会(ERA)学術大会で発表済みで、late-breaking(最新速報)の結果は2026年10月23日、米国腎臓学会のKidney Weekで発表される。
意味:5つ目の適応と、日本での審査
アレクシオンのマーク・デュノワイエCEOは、今回の承認がユルトミリスにとって5つ目の適応にあたると述べている。ユルトミリスはすでに発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、全身型重症筋無力症(gMG)、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)で各国の承認を得ており、補体介在性希少疾患という軸の上に腎領域が加わった形だ。既承認の疾患で積み上げられた安全性プロファイルが、新しい疾患領域での選択肢追加を支える構図になっている。
スタンフォード大学医療センターのリチャード・ラファイエット教授(I CAN試験外部科学委員会の共同議長)は、既存治療下でも持続する蛋白尿がIgAN患者にとって大きな課題であり、継続する腎障害と進行リスクの兆候だと指摘。今回の承認により、医師は腎炎症の中心的な駆動因子を標的とし、終末補体を持続的に阻害するC5阻害薬という手段を持つことになるとコメントした。IgA Nephropathy Foundation共同創設者のボニー・シュナイダー氏も、患者と医師の選択肢が広がる意義を述べている。
もっとも、承認の土台が34週の蛋白尿という代替指標にとどまる点は変わらない。腎機能そのものの推移を示す106週時点のeGFRデータが出るまで、この薬がIgANの進行経過をどこまで変えるかは未確定である。迅速承認の枠組みは、その検証を前提に市場投入を前倒しする仕組みであり、I CAN試験の最終解析が次の節目となる。
日本の読者にとって直接関係するのは最後の一文だ。I CAN試験の中間解析結果に基づく承認申請は、日本およびその他の国でも審査中である。ユルトミリスは日本でもPNH、aHUS、gMG、NMOSDで承認されている。IgANが日本で5つ目の適応として加わるかどうかは、今後の審査の行方次第となる。