何が起きたか
アッヴィ(AbbVie、NYSE: ABBV)は2026年10月22日、中等症から重症の化膿性汗腺炎(HS)の成人および青年を対象とした第III相INTREPID試験のトップライン結果を公表し、主要評価項目と8つの順位付けされた副次評価項目を達成したと発表した。対象となるルチキズマブ(ABT-981)は、インターロイキン(IL)-1αとIL-1βの双方を標的とするデュアル可変ドメイン型の拮抗薬で、現時点で規制当局の承認を受けていない開発中の薬剤である。
主要評価項目は16週時のHiSCR75の達成率で、ルチキズマブ群31.4%に対しプラセボ群23.4%(p≤0.001)だった。HiSCR75は、膿瘍と炎症性結節(AN)の合計数がベースラインから75%以上減少し、かつ膿瘍数と排膿性瘻孔数がベースラインから増加していないことと定義される。アッヴィによれば、成人と青年を含むHSの第III相試験で、16週時のHiSCR75を主要評価項目として統計学的有意差を示したのは本試験が初めてだという。
副次評価項目では、8週時にHS関連の皮膚疼痛がNRS(Numeric Rating Scale)でベースラインから3ポイント以上低下したNRS3の達成率が、ルチキズマブ群26.2%、プラセボ群15.0%。16週までのHSフレア(ANカウントの25%以上かつ絶対値で2以上の増加)の発生も有意に少なかった。DLQI(皮膚科領域QOL指標)およびHSIA(化膿性汗腺炎インパクト評価)のベースラインからの変化でも改善がみられたとしている。
安全性は既存の試験と同様で、新たな懸念は認められなかった。治療下で発現した有害事象はルチキズマブ群53.4%/プラセボ群53.7%、重篤な有害事象は3.0%/2.9%、投与中止に至った有害事象は1.7%/1.9%。3%以上で報告された事象は鼻咽頭炎、上気道感染、頭痛、疲労、注射部位反応で、注射部位反応を除けばプラセボと同程度だった。口腔カンジダ症は0.3%/0.4%。自殺念慮は両群で観察されず、死亡はルチキズマブ群でゼロ、プラセボ群で1例だった。
試験の設計とこれまでの経緯
INTREPIDは多施設共同・無作為化・二重盲検・プラセボ対照の第III相試験(NCT06468228)で、北米、南米、欧州、アジアで計1400例が1:1でルチキズマブ皮下投与群とプラセボ群に割り付けられた。試験は3つの期間から成り、ベースラインから16週までのプラセボ対照期間(Period 1)、16週から52週まで盲検下でルチキズマブを投与するPeriod 2、全例がルチキズマブを継続投与される156週の長期継続投与期間(Period 3)が設定されている。主要評価項目と順位付け副次評価項目は、全体の第一種の過誤率を制御する事前規定のグラフィカル検定法で評価された。
開発の根拠は疾患生物学にある。HS病変ではIL-1αとIL-1βの上昇が報告されており、アッヴィのグローバル免疫学臨床開発責任者であるKori Wallace氏は、この機序的根拠が同薬をHSで評価する理由だと述べている。HSは痛みを伴う嚢腫、膿瘍、排膿性瘻孔の形成により不可逆的な皮膚障害と機能障害をもたらす慢性・再発性の進行性炎症疾患で、世界人口のおよそ1%が罹患し、診断までに平均7〜10年かかるとされる。治療選択肢は限られている。
業界にとっての意味
まず注目すべきは、主要評価項目にHiSCR75を据えた点である。HSの臨床試験では50%減少を基準とするHiSCR50が広く用いられてきたが、本試験はより厳しい75%減少を一次エンドポイントに置いた。ハーバード大学医学大学院のAlexa B. Kimball氏(アッヴィのコンサルタント)も、HiSCR75が臨床的奏効の定義として厳格な基準であることを指摘している。今後、HS領域の有効性のものさしが引き上げられる可能性がある。
一方で、プラセボ群の奏効率も23.4%と低くはなく、群間差は約8ポイントにとどまる。統計学的有意性と臨床的な差分の大きさは別の論点であり、16週以降の推移を含む詳細データの評価が必要になる。
アッヴィは、36週の盲検継続投与期間の結果を含む追加データを2027年に取得する見込みで、これをHSに関する承認申請の裏付けとし、同年後半の申請を目指すとしている。さらに同社は年内の開始を予定するHSプラットフォーム試験プログラムで、ルチキズマブとABBV-295(長時間作用型アミリンアナログ)の併用、さらにABBV-701(抗TL1Aモノクローナル抗体)などの補完的な機序との組み合わせを評価する計画だ。単剤での上乗せ効果が限定的な領域において、複数経路を同時に叩く併用戦略へ軸足を移す構えがうかがえる。データは今後の医学会で発表される予定である。