何が決まったか

アステラス製薬は2026年10月23日、Pfizer Inc.と共同開発する抗体-薬物複合体(ADC)PADCEV™(一般名:エンホルツマブ ベドチン(遺伝子組換え))と、Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA(米国とカナダ以外ではMSD)の抗PD-1抗体Keytruda®(一般名:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え))の併用療法について、シスプラチン適応の有無にかかわらず、切除可能な筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)成人患者を対象とする術前術後の補助療法として、欧州委員会(EC)から承認を取得したと発表した。

今回の承認は、第III相EV-304試験(KEYNOTE-B15試験)の結果に基づく。欧州では、EV-303試験(KEYNOTE-905)の結果に基づき2026年にシスプラチン不適応患者への適応がすでに承認されており、今回はそこにシスプラチン適応患者が加わる形となる。結果として、欧州において本併用療法は、シスプラチン適応の有無を問わず、切除可能なMIBC成人患者全体をカバーする治療選択肢となった。

なお本件によるアステラス製薬の業績への影響は、通期(2027年3月期)連結業績予想に織り込み済みとしている。

EV-304試験の数字

EV-304試験は、シスプラチンを用いた化学療法に適応のあるMIBC患者を対象とした非盲検無作為化第III相試験である。被験者は、手術に加えてエンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブの術前術後補助療法を受ける群(併用療法群)と、手術に加えて現在の標準治療である術前補助化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン)を受ける群(術前化学療法群)に無作為に割り付けられ、いずれの群でも膀胱摘除術が実施された。併用療法は手術前後に分けて実施され、エンホルツマブ ベドチンは計9サイクル、ペムブロリズマブは計17サイクル投与された。

主要評価項目は無イベント生存期間(EFS)で、膀胱全摘除術(RC)を妨げる病勢の進行、残存病変を有する患者がRCを受けられなかった場合、手術時の肉眼的残存病変、画像検査および/または生検によって評価された局所または遠隔の再発、原因を問わない死亡——のいずれかが最初に発生するまでの時間と定義された。主な副次評価項目は全生存期間(OS)と病理学的完全奏効(pCR)率である。

結果は、併用療法群が術前化学療法群に対しEFS、OSともに統計学的に有意な改善を示した。再発、病勢進行または死亡のリスクは47%減少(HR=0.53、95%CI 0.41-0.70、片側検定でp<0.0001)、死亡リスクは35%減少した(HR=0.65、95%CI 0.48-0.89、片側検定でp=0.0029)。手術時点のpCR率は併用療法群55.8%に対し術前化学療法群32.5%で、推定差23.4%(95%CI 16.7-29.8、片側検定でp<0.0001)だった。

安全性については、併用療法群のプロファイルは各薬剤でこれまでに報告されているものと同様で、新たな安全性シグナルは認められなかった。薬剤との因果関係を問わないグレード3以上の有害事象の発生率は、併用療法群75.7%、術前化学療法群67.2%である。

背景——標準治療と再発リスク

資料によれば、MIBCは進行性かつ侵襲性の高い膀胱がんであり、根治を目的とした治療が行われた場合でも再発や病態進行のリスクが高い。シスプラチン適応の切除可能なMIBC患者に対しては、シスプラチンを含む術前補助化学療法とそれに続く根治的膀胱全摘除術が標準治療とされてきたが、患者の約半数が5年以内に手術後の再発を経験するとされる。

EV-304試験の主要研究責任医師であるMatthew D. Galsky氏(Mount Sinai Tisch Cancer Center, Icahn School of Medicine at Mount Sinai)は、シスプラチン適応のある切除可能なMIBC患者に対しては長年シスプラチンを用いた術前補助化学療法が確立された治療法として用いられてきたとしたうえで、「今回の承認により、医師は、シスプラチンを含む化学療法を用いることなく、再発リスクを有意に低減し、全生存期間の改善が示された治療レジメンという新たな選択肢を得ることになります」と述べ、治療計画の立案における柔軟性が高まるとしている。

エンホルツマブ ベドチンは、ほぼ全ての尿路上皮がん細胞に発現し細胞間の接着に関連するタンパク質ネクチン-4を標的とするファーストインクラスのADCで、非臨床データでは、がん細胞上のネクチン-4への結合と取り込みを経て細胞障害性物質MMAEが放出され、細胞周期停止とアポトーシスが生じることが示唆されている。

意味——「進行がんの薬」から周術期へ

今回の承認が示すのは、エンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブの併用が、より早期の疾患ステージへと適用範囲を広げたという点である。資料によれば本併用療法は、シスプラチン適応の有無にかかわらず局所進行性または転移性尿路上皮がん(la/mUC)の治療法として米国、日本を含む世界各国で承認されており、欧州では白金製剤適応のla/mUC患者に対して承認されている。切除可能なMIBCという手術を前提とした段階での承認は、この薬剤の位置づけを転移期から周術期へと移すものだ。

また欧州では、EV-303試験に基づくシスプラチン不適応患者への適応と今回の適応拡大が合わさり、シスプラチンの可否で患者を分けずに同一のレジメンを検討できる状態になった。アステラス製薬のHead of Oncology DevelopmentであるMoitreyee Chatterjee-Kishore氏も、EUにおける切除可能なMIBC成人患者に対して「一貫した治療アプローチが可能となる」と述べている。シスプラチン適応判定が治療選択の分岐点として機能してきた領域において、この一貫性は実務上の変化となりうる。

もっとも、グレード3以上の有害事象発生率は併用療法群75.7%と術前化学療法群67.2%を上回っており、有効性の改善と安全性プロファイルの両方を踏まえた患者選択が前提となる。アステラス製薬は、MIBC患者の本併用療法への迅速なアクセスを可能にするため、欧州各国の規制当局および医療技術評価機関と緊密に連携しているとしている。承認の次の論点は、各国での償還と実地での導入のスピードに移る。