何が決まったか
英国のNICE(国立医療技術評価機構)は2026年10月23日、前立腺MRI画像の読影を支援する5つのAI技術について、さらなるエビデンスを収集しながらNHS(国民保健サービス)で前立腺がん検出の選択肢として使用できると推奨した。草案指針で示された2年間のエビデンス創出期間中の使用が対象となる。
推奨されたのは次の5製品である。
- AI-Rad Companion Prostate MR
- DeepHealth Prostate
- ProstatID
- Prostate Intelligence (Pi)
- QP-Prostate
これらは、前立腺MRI画像上でがんが存在する可能性のある領域を強調表示し、放射線科医(画像を読影する医師)が所見を見つけ報告しやすくするよう設計されている。具体的には、がんの疑いがある領域を特定して輪郭を描き、リスクを分類し、読影を支援する情報を生成する。
一方、hProstateとmdprostateの2つの技術については、臨床的エビデンスも費用対効果のエビデンスも得られなかったため、NHSでの資金提供の対象としては推奨されなかった。
背景にあるのは診断需要の増加
イングランドでは2023年に58,000件を超える前立腺がんの新規診断があった。NHSの全国臨床ディレクター(がん)であるピーター・ジョンソン教授は、前立腺がんがイングランドで最も多いがんであると述べている。
MRIは前立腺がんの診断経路において重要な位置を占める。放射線科医が画像を読影し、がんが存在する可能性があるか、生検などのさらなる検査が必要かを判断する。前立腺がんの腫瘍のすべてが治療を要するわけではなく、症状を引き起こす可能性が低いものについては、変化を安全に経過観察するという選択肢もある。MRIは、生検や追加検査によって治療を要するがんの有無を確認すべき患者を見分けるうえで役割を果たす。
しかし近年、前立腺MRIの需要は増加しており、放射線科部門への負荷が高まっている。NICEは、これらの技術が臨床医の時間と対応能力を解放し、患者支援に充てる余地を生み出しうるとしている。
独立委員会は、これらの技術が前立腺MRI読影の正確性と一貫性を改善する可能性があり、とくに専門的知見のない施設でその効果が期待できると結論づけた。ただし、NHSの日常診療における性能については、さらなるエビデンスが必要だとしている。委員会は、利用可能なエビデンスが限られ、研究間で結果が必ずしも一致していなかったとも指摘した。今後必要とされるのは、診断精度、患者アウトカム、NHSのワークフロー、コスト、そして異なる患者集団における性能に関するNHS由来のエビデンスである。
「置き換え」ではなく「第二の目」
今回の推奨で繰り返し強調されたのは、AIが放射線科医を代替しないという点である。
NICEのHealthTechプログラムディレクターであるアナスタシア・チャルキドゥ博士は、これらのAI技術が「第二の目」のように機能し、放射線科医のMRI読影を助ける可能性があると述べた。また、MRI報告の正確性を高め、優先的な確認が必要な画像の患者を特定するのに役立ちうるとも説明している。委員会は、日常診療や異なる患者群における性能に関するエビデンスを収集しながらNHSで使用できると結論づけた、というのが同氏の説明である。
NICEの最高医務責任者で一般医(GP)のエイドリアン・ヘイター博士は、これらの技術は放射線科医を支援するものであり置き換えるものではなく、患者ケアに関する判断の前に放射線科医が画像とAIの結果の両方を確認すると述べた。ジョンソン教授も、放射線科医がすべての画像を確認するため、技術は専門スタッフを支援するが代替はしないと同様の説明をしている。同教授はさらに、肺がん領域でのAI活用の経験を挙げ、こうした技術がより速い診断につながりうるとし、NHS全体の多様な患者でどう機能するかについてエビデンスを集める機会を歓迎するとした。
ヘルスイノベーション担当大臣のジェームズ・フリス氏は、今回の決定について、専門家を支援してより正確かつ一貫した前立腺がんの検出を可能にし、逼迫した放射線科サービスの圧力緩和を助けるものであり、NHSにおけるAIの「現実的な可能性」を示すものだと述べた。臨床医を置き換えるのではなく支援するツールを後押しすることが、保健サービス全体で求められる「賢明で安全なAI導入」だとしている。
業界にとっての意味
今回の枠組みは、エビデンスが限定的な段階の技術を「使いながら評価する」という条件付き導入の形をとっている点に特徴がある。臨床的・経済的エビデンスが提示できなかった2製品が資金提供の対象外となったことは、同じ領域の製品であっても、提出できるデータの有無が市場アクセスを直接左右することを示している。
また、2年間のエビデンス創出期間で求められる項目には、診断精度だけでなく、患者アウトカム、ワークフロー、コスト、異なる患者集団での性能が含まれる。読影支援AIを開発する企業にとっては、アルゴリズムの精度を示すだけでは足りず、実際の医療現場での運用データを揃えることが次の関門になる。
草案指針とエビデンス創出計画は現在、パブリックコンサルテーションに付されている。寄せられた意見は独立委員会で検討されたうえで、最終指針が公表される。