何が起きたか
ロシュ(SIX: RO, ROP、OTCQX: RHHBY)は2026年10月23日、スイス・バーゼルで、原発性IgA腎症(IgAN)の成人を対象とした進行中の第3相試験「IMAgINATION」の中間データを発表した。治験薬セファクセルセン(sefaxersen)は、37週時点でプラセボと比較して統計学的に有意かつ臨床的に意義のある43.1%の尿蛋白減少を達成した(95%信頼区間:32.5〜52.0、P<0.0001)。評価は24時間尿の尿蛋白クレアチニン比(UPCR)で行われた。
データは、米国コロラド州デンバーで10月20日から26日に開催された米国腎臓学会(ASN)Kidney Week 2026において、レイトブレイキングの口頭発表として示された。発表によれば、ベースライン時に血尿を有していた患者のうち、37週時点で血尿が消失した患者の割合は、プラセボ群よりセファクセルセン群で高かった。
事前に規定されたすべての患者サブグループで、治療効果は主要評価項目で示された臨床的に意義のある尿蛋白減少と一貫していた。安全性については、忍容性は良好で、既報の第2相試験と一致するプロファイルを示し、新たな安全性シグナルは認められなかった。
IMAgINATIONは、進行リスクの高い原発性IgA腎症患者を対象とした多施設共同・無作為化・二重盲検・プラセボ対照の第3相試験(NCT05797610)で、459人が登録され、1対1の割付でセファクセルセンまたはプラセボを105週間投与される。主要評価項目は37週時点のUPCRのベースラインからの変化。参加者は105週以降、治験責任医師の判断により、または共通終了時点のいずれか早い時点以降に、非盲検投与へ移行できる。
背景
セファクセルセンは、IgA腎症で評価されている初めてのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であり、肝臓を標的として補体第B因子の産生を特異的に阻害する。IgA腎症患者では血清補体第B因子の値が上昇しており、これを低下させることで尿蛋白が減少するとされる。IgA腎症では、免疫複合体が腎臓に沈着して補体系の第二経路(副経路)が活性化し、炎症とそれに続く腎障害を引き起こす。セファクセルセンは、この第二経路を持続的に制御するよう設計されており、月1回の皮下投与、かつ在宅での自己投与を想定している。
第1相および第2相試験では、健康被験者および進行リスクの高いIgA腎症患者において概ね忍容性が良好で、尿蛋白と血漿中の補体第B因子を低下させることが示されていた。ロシュは、補体介在性疾患の治療を目的として、セファクセルセンをIonis Pharmaceuticalsからライセンス導入している。
IgA腎症(バージャー病)は、慢性・進行性の自己免疫性腎疾患で、世界で年間少なくとも成人100万人あたり25人が罹患し、通常40歳未満で診断される。原発性糸球体腎炎として最も多い病型で、診断から20年以内に最大50%の患者が末期腎不全に至る。現在の治療の多くは、尿蛋白の低下と血圧の管理によって進行を遅らせることを目的としている。
KDIGO 2025ガイドラインは、IgA腎症の根底にある免疫介在性の原因と、腎障害の下流の帰結の双方に対処する必要性を強調している。新たな治療選択肢は広がったものの、長期的な腎機能の維持や、疾患進行の主要な駆動因子に対するより標的を絞ったアプローチといった重要なアンメットニーズが残る、とロシュは説明している。
意味するもの
ロシュのチーフ・メディカル・オフィサー兼グローバル開発責任者であるLevi Garraway氏は、「肝臓で補体第B因子を阻害することで、セファクセルセンはIgA腎症の進行を遅らせる新しいアプローチを提供し、長期の透析や腎移植を遅らせる、あるいは回避する助けとなる可能性がある」と述べている。
今回示されたのは37週時点の尿蛋白という代替指標の結果であり、腎機能そのものへの影響はこれから検証される。IMAgINATION試験は盲検を維持したまま継続し、105週時点の推算糸球体濾過量(eGFR)で測定する2年間の腎機能変化を評価する。ロシュは、データを各国規制当局と共有し、可能な限り早期に患者へ届けることを目指すとしている。
発表内容に基づけば、本剤の特徴は三点に整理できる。第一に、IgA腎症で評価される初のASOという作用機序上の新規性。第二に、月1回・皮下・在宅自己投与という投与形態。第三に、事前規定サブグループ全体で一貫した効果と、第2相と一致する安全性プロファイルである。初回治療に反応しない患者を含め、進行リスクを抱える患者に対する標的治療の選択肢をどこまで広げられるかが、今後のeGFRデータと規制当局の判断にかかっている。