何が公表されたか
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J、NYSE:JNJ)は2026年10月23日、米ニュージャージー州ニューブランズウィックで、2026年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)congressにおいて固形がんのポートフォリオおよびパイプラインから25本を超えるアブストラクトを発表すると明らかにした。内容は、進行前立腺がんに対する新規モダリティの臨床結果、頭頸部・肺・大腸・膀胱がんにわたる新データ、そして高リスク限局性および局所進行前立腺がんにおける第3相試験の late-breaking データで構成される。
同社グローバル・セラピューティックエリアヘッド(オンコロジー)のYusri Elsayed氏は「より早期に介入し、治療体験を改善し、治療が難しい疾患に対して新しい生物学的アプローチを追求することで、がん治療のあり方を再定義することを目指す」とコメントしている。
発表される主なデータ
前立腺がんでは、経口の first-in-class 低分子 JNJ-6143(旧HLD-0915) の安全性・有効性データが Proffered Paper(#2216O)として発表される。JNJ-6143は、細胞生存に必須のタンパク質BRD4と、腫瘍選択的なアンドロゲン受容体(AR)を結びつける「二重タンパク質ロック」として設計された RIPTAC(Regulated Induced Proximity Targeting Chimera)プラットフォーム由来の化合物で、臨床試験に進んだ最初のRIPTAC化合物にあたる。今回の結果は、転移性アンドロゲン経路調節抵抗性前立腺がん(mAPMR、いわゆるmCRPC)における今後の開発用量の決定に用いられる。第1相(NCT06800313)および第2相(NCT07832292)で評価中である。
あわせて、高リスク限局性・局所進行前立腺がんを対象とした第3相PROTEUS試験のサブスタディが late-breaking(#53)として、ERLEADA(アパルタミド)とアンドロゲン除去療法の周術期併用と根治的前立腺全摘除術単独との比較で報告される。PROTEUSの長期成績(#2049P)、KLK2を標的とする二重特異性抗体 pasritamig(JNJ-78278343)の第3相KLK2-comPAS、comPAS2、KLK2-PASengerの trial-in-progress(#2388eTiP、#2387eTiP)も並ぶ。
肺・頭頸部領域では、皮下投与のRYBREVANT FASPRO(amivantamab and hyaluronidase-lpuj)関連が中心となる。再発・転移頭頸部がんの一次治療でペムブロリズマブおよびカルボプラチン併用を評価した第1b/2相OrigAMI-4の初回結果(#1539RO)、免疫療法・プラチナ製剤既治療例での実臨床治療との間接比較(#1585P)、EGFR変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)でLAZCLUZE(レーザーチニブ)併用時の中等度〜重度の皮膚有害事象の予防を検討した第2相COCOONの新コホート(#2700RO)、第3相MARIPOSAの post hoc 解析(#2650P)、患者・医師の治療選好を調べたMyChoiceの中間結果(#2641P)が示される。
背景
ERLEADAは2018年2月に米FDAからnmCRPCで、2019年9月にmCSPCで承認を取得しており、これまでに世界で38万人以上の患者に使用されている。より早期の病期での評価は継続中で、今回のPROTEUSはその一環にあたる。安全性では、SPARTAN試験で虚血性心血管イベントがERLEADA群3.7%、プラセボ群2%、TITAN試験で4.4%対1.5%と報告されている。
JNJ-6143とRIPTACプラットフォームは、2025年12月に完了したHalda Therapeutics買収によってJ&Jのオンコロジーポートフォリオに加わったもので、今回が買収後初のデータ発表となる。RYBREVANT FASPROは2025年12月に米FDA承認を取得し、EGFR変異NSCLCで承認された唯一の皮下投与療法とされる。頭頸部がんではBreakthrough Therapy DesignationとPriority Reviewを受けている。LAZCLUZEは2018年にJanssen BiotechがYuhan Corporationと結んだライセンス・共同開発契約に基づく。
意味
今回のラインアップは、確立した薬剤の適応をより早期の病期へ広げる動きと、まったく新しい作用機序を臨床に乗せる動きが同時に進んでいることを示す。前者はERLEADAのPROTEUS、後者はRIPTAC由来のJNJ-6143が象徴的だ。特にJNJ-6143は、買収からおよそ1年以内に初の臨床データが学会で示される形となり、外部からの導入技術がどれだけ早く臨床の俎上に載るかという点で注目される。
RYBREVANT/RYBREVANT FASPROについては、肺がんでの確立した位置づけを踏まえ、頭頸部がんや大腸がんへとEGFR-MET二重標的の適用範囲を探る段階にある。加えて、COCOONの皮膚障害予防コホートやMARIPOSAの用量調整解析、MyChoiceの治療選好調査は、有効性そのものではなく投与継続性や患者負担に焦点を当てたデータであり、皮下投与という剤形の価値を裏づける材料としても読める。