何が起きたか

武田薬品工業は2026年10月23日(米国時間)、既治療のClaudin(CLDN)18.2陽性進行胃腺がんまたは食道胃接合部腺がん(G/GEJA)を対象としたarcotatug tavatecan(TAK-921、Innovent社開発コード:IBI343)の国際共同第3相G-HOPE-001試験(NCT06238843)で良好な結果が得られたと発表した。2026年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会のLate-Breaking Oral Presentationで発表された2回の中間解析の結果、本試験は主要評価項目である全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を達成した。

事前に規定された第2回中間解析(IA2)は2026年9月3日をデータカットオフ日とし、OSを評価した。OS中央値はarcotatug tavatecan群で10.2カ月、医師選択治療(TPC)群で6.9カ月(HR=0.57[95% CI:0.45–0.73]、P<0.0001)だった。独立画像判定委員会(IRRC)評価によるPFS中央値は、同群で7.1カ月、TPC群で3.1カ月(HR=0.45[95% CI:0.35–0.58])。IRRC評価による確定奏効率(ORR)は37.4%対7.7%だった。

第1回中間解析(IA1)は2026年2月13日をデータカットオフ日として、PFSの最終解析とOSの無益性評価を実施した。IRRC評価によるPFS中央値はarcotatug tavatecan群で5.5カ月、TPC群で2.9カ月(HR=0.47、95% CI:0.34–0.65、P<0.0001)だった。

安全性については、グレード3以上の治験薬との関連がある有害事象の発現率がarcotatug tavatecan群47.4%、TPC群55.9%。両群で多かったグレード3以上の治験薬投与開始後に発現した有害事象(TEAE)は、貧血(20.4%対13.1%)、好中球数減少(17.4%対32.0%)、白血球数減少(11.7%対22.5%)。グレード3以上の悪心、嘔吐、下痢はarcotatug tavatecan群でそれぞれ0.9%、2.6%、1.3%、TPC群で1.8%、3.2%、4.1%だった。投与中断に至ったTEAEは47.4%対51.4%、治験薬との関連がある投与中止はarcotatug tavatecan群で1.7%。同群では原因不明の突然死として報告された、治験薬との関連がある死亡に至った有害事象が1例認められた。

試験と薬剤の中身

G-HOPE-001試験は、既治療のCLDN18.2陽性G/GEJA患者を対象に、arcotatug tavatecan単剤療法とTPC(イリノテカン、パクリタキセルまたはトリフルリジン/チピラシル)を比較する、中国および日本で実施中の国際共同、多施設共同、無作為化、非盲検試験である。対象は、コンパニオン診断薬VENTANA CLDN18(43-14A)Assayで腫瘍細胞の75%以上にIHCによる発現強度2+以上が認められ、2〜4レジメンの全身療法後に病勢進行が確認された患者。地域、原発巣部位、胃切除歴を層別因子に、arcotatug tavatecan 6 mg/kgを3週間ごとに投与する群とTPC群へ1対1で無作為に割り付けられ、日本および中国で計464名が登録された。主要評価項目はRECIST v1.1に基づくPFSとOS、副次評価項目にORR、病勢コントロール率、奏効期間、奏効までの期間、安全性が含まれる。試験は現在も進行中で、追加の事後解析結果は今後の医学学会で発表予定とされる。

arcotatug tavatecanは、抗CLDN18.2抗体にトポイソメラーゼⅠ阻害剤であるエキサテカンを結合した次世代ADCで、腫瘍外の標的発現に起因する毒性(off-tumor, on-target toxicity)のリスクを抑えるため、Fc機能を抑制した構造設計を採用している。武田薬品はInnovent社とライセンスおよび提携契約を結び、中国・香港・マカオ・台湾以外での開発、製造、商業化の権利を有する。本剤は2レジメンの全身療法による既治療のCLDN18.2陽性膵がんを対象に、米国FDAからファストトラック指定を受けている。FDAを含むいずれの規制当局からも承認は取得していない。

ESMO2026で結果を発表した国立がん研究センター東病院 消化管内科長の設楽紘平医師は「前治療を複数回受けた後に病勢が進行した胃がん患者さんは、治療選択肢が限られており、予後も不良です」とした上で、本剤が「管理可能な安全性プロファイルを有し、CLDN18.2陽性進行胃がん患者さんに臨床的に意義のあるベネフィットをもたらし、新たな治療選択肢となる可能性を示しています」と述べている。

業界にとっての意味

資料によれば、胃がんは世界で5番目に多く、がん関連死亡原因でも5番目に位置し、日本と中国は発症率の高い国とされる。5年相対生存率はおおむね20%〜40%で、後方ライン治療を受ける患者のOS中央値は依然10カ月未満にとどまる。今回のIA2でOS中央値10.2カ月という数値が示されたことは、既存の後方ライン治療に対する比較で改善を示した点に意味がある。

武田薬品は、本試験データが日本における本適応症での製造販売承認申請の根拠となる可能性があるとしている。中国では、Innovent社が承認申請したarcotatug tavatecanが中国国家薬品監督管理局(NMPA)により優先審査品目として受理されている。つまり、日中それぞれで規制上の歩みが進む構図だ。

さらに同社は、進行中の概念実証試験の結果を基盤に、胃がんおよび膵臓がんを対象とした国際共同第3相試験を開始する予定としている。Oncology Therapeutic Area Unit HeadのPhuong Khanh(P.K.)Morrow, M.D.は、今回のデータが「初の製造販売承認申請および継続的なグローバル開発に向けた道筋を裏付ける」と述べる。CLDN18.2を軸に胃がんから膵臓がんへと適応を広げる戦略が、臨床データの裏づけを得て次の段階に入ったことになる。