何が起きたか

GSK plc(LSE/NYSE: GSK)は2026年10月26日(ロンドン発)、同社のライセンサーである翰森製薬集団(Hansoh Pharmaceutical Group Co., Ltd.)が中国で実施した第III相試験「ARTEMIS-011」において、抗体薬物複合体(ADC)risvutatug rezetecan(Ris-Rez、リスブタツグ・レゼテカン)が主要評価項目を達成したと発表した。対象は、2レジメン以上の全身療法後に進行または再発した骨肉腫患者である。

主要評価項目である独立評価委員会(IRC)判定の無増悪生存期間(PFS)について、Ris-Rez群は化学療法群と比較して病勢進行または死亡のリスクを67%低減した(HR 0.33、95%CI 0.20-0.55、p<0.0001)。追跡期間中央値は7.1カ月。PFS中央値はRis-Rez群が5.5カ月、化学療法群が1.4カ月だった。

安全性については、本腫瘍型におけるこれまでの知見と一貫していたとされる。グレード3以上の治療関連有害事象(TRAE)は、12 mg/kg用量のRis-Rez群で93%、化学療法群で83%に発現。両群で最も多かったグレード3以上のTRAEは血液学的事象だった。TRAEによる投与中止はRis-Rez群で4%、化学療法群で2%だった。

この結果はEuropean Society for Medical Oncology(ESMO)Congress 2026のPresidential Symposiumセッションでレイトブレーキング演題として発表され、翰森製薬による中国での承認申請を支える位置づけとなる。

試験の設計と、これまでの経緯

ARTEMIS-011は、翰森製薬が実施した多施設共同・無作為化・非盲検の第III相試験。中国の患者を対象に、Ris-Rezと化学療法(ゲムシタビン+ドセタキセル)を比較した。患者は1:1に無作為化され、Ris-Rez群は12.0 mg/kgを3週ごとのday 1に投与、化学療法群はゲムシタビン1,000 mg/m²をday 1およびday 8、ドセタキセル75 mg/m²をday 8に、3週ごとに投与した。

用量の設定には理由がある。小細胞肺がんを対象としたARTEMIS-008試験では8 mg/kgが用いられたが、本試験では骨組織への移行性の難しさを考慮して、より高用量の12 mg/kgが選択された。副次評価項目には、治験医師判定の全生存期間およびPFS、安全性、IRC判定の奏効率(ORR)、病勢制御率、奏効期間(DOR)が含まれる。

骨肉腫は年間発生率が人口100万人あたり約3.4例とされる希少がんで、主に小児および若年成人に発症する。原発性骨腫瘍のうち最も頻度が高く、全骨がんの20〜40%を占める。一次化学療法後の再発骨肉腫では治療選択肢が著しく限られ、明確な標準治療は確立されていない。2レジメンを経た後はさらに選択肢が狭まり、承認された治療法は存在しない。

本試験の治験責任医師である北京大学の Lu Xie 氏(肉腫領域の腫瘍内科・小児腫瘍科医、筋骨格腫瘍センター副医療部長、臨床准教授)は、再発・進行例に承認治療も確立した標準治療もない状況を挙げ、今回のPFS改善が「進歩が困難だった領域に重要な新しいエビデンスを加えるもの」だとコメントしている。

業界にとっての意味

GSKのオンコロジーR&Dグローバル責任者であるHesham Abdullah上級副社長は、今回が翰森製薬による中国でのRis-Rez第III相試験の2本目の良好な結果であり、複数の難治性固形がんにわたるエビデンスの蓄積に加わるものだと述べた。

Ris-RezはB7-H3タンパクを標的とする新規の治験段階ADCである。B7-H3は10種類を超える固形がんで高発現しており、GSKは2040年までに40を超える適応での開発を目指している。GSKの global EMBOLD 臨床試験プログラムではこれまでに1,000人超の患者がRis-Rezの投与を受けており、後期ラインの進展型小細胞肺がん(ES-SCLC)と転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)での第III相試験が進行中。さらに早期ラインのSCLCおよび化学療法未治療のmCRPCでの第III相試験も計画されている。規制上の指定も複数取得しており、SCLCに対する米国・日本・EUでの希少疾病用医薬品指定、再発・難治性ES-SCLCに対する米国のBreakthrough Therapy指定とEMAのPRIME指定、そして再発・難治性骨肉腫に対する米国のBreakthrough Therapy指定などがある。

権利関係も押さえておきたい。GSKは中国本土・香港・マカオ・台湾を除く地域でRis-Rezを開発・商業化する独占的権利を保有し、肺がん、前立腺がん、その他の固形がんにまたがるグローバル開発プログラムを進めている。肉腫領域では、既治療の切除不能な進行・転移性肉腫(骨肉腫を含む)を対象とした第Ib/II相試験「EMBOLD Sarcoma-202」が進行中だ。同試験はPFSと確定ORRを主要評価項目とし、副次評価項目に安全性、DOR、患者報告アウトカムを置く。思春期患者および成人における最適用量の検討も目的に含まれる。

GSKは、ARTEMIS-011のデータがグローバル集団での用量選択の検討に資すると説明している。つまり、中国で実施された試験の結果が、中国外のグローバル開発プログラムに直接フィードバックされる構図である。中国バイオテックから導入した資産について、現地での第III相データをグローバル開発の設計に組み込むという進め方は、ライセンス取引後の開発オペレーションのあり方として注目される点だろう。骨組織への移行を考慮した用量設定という論点が中国試験で先行して検証された意味も、同様に小さくない。