何が起きたか
アストラゼネカは2026年10月25日、第III相SAFFRON試験の良好な結果を公表した。タグリッソ(オシメルチニブ)にオルパシー(サボリチニブ)を併用する治療が、プラチナ製剤ベースの2剤併用化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の双方で統計学的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示した、というものだ。対象は、MET高発現またはMET増幅を有し、先行するタグリッソ治療後に病勢進行したEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者である。
結果は同日、スペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2026のプレジデンシャル・シンポジウムで発表され(abstract #LBA6)、同時にThe New England Journal of Medicineに掲載された。
数字で見るSAFFRON
主要評価項目のPFSでは、併用群は化学療法群に対し病勢進行または死亡のリスクを45%低下させた(ハザード比0.55、95%信頼区間0.42–0.72、p<0.001)。盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS中央値は、併用群7.6カ月に対し対照群5.4カ月。1年時点で無増悪であった患者の推定割合は、併用群36%、対照群10%だった。PFSのベネフィットは、MET高発現・MET増幅のいずれの集団を含め、あらかじめ規定された全サブグループで一貫していた。
主要な副次評価項目であるOSでは、死亡リスクを32%低下させた(HR 0.68、95%CI 0.50–0.91、p=0.010)。OS中央値は併用群17.8カ月、対照群12.9カ月で、差は4.9カ月。1年時点の生存割合は併用群70%、対照群53%と推定された。
サブ集団別では、MET高発現解析集団(併用群127例、対照群118例)のPFS中央値が8.5カ月対5.6カ月(HR 0.51、95%CI 0.37–0.71、p<0.001)、12カ月PFS率は40%対11%。MET増幅解析集団(129例対116例)ではPFS中央値7.64カ月対4.2カ月(HR 0.487、95%CI 0.35–0.66)、12カ月PFS率33%対8%だった。ただしMET増幅解析集団については正式な統計学的検定は行われていない。OS・PFSのデータカットオフは2026年7月6日。
安全性については、それぞれの薬剤の既知のプロファイルと一致し、管理可能で、新たな懸念は認められなかった。全原因によるグレード3以上の治療下発現有害事象は、併用群64%、対照群63%。治療曝露期間の中央値は併用群8.5カ月と、対照群3.5カ月の2倍以上だった。
背景──第3世代EGFR-TKI後の「3人に1人」
資料によれば、肺がんは世界のがん死亡の19%、およそ5人に1人を占める。NSCLCは肺がんの80〜85%を占め、NSCLC患者の約75%が進行期で診断される。EGFR変異陽性NSCLCは米国・欧州のNSCLC患者の約10〜15%、アジアでは30〜40%にのぼる。
METは正常な細胞発生に不可欠なチロシンキナーゼ受容体だが、過剰発現や遺伝子増幅は腫瘍増殖や転移の進行につながる。第3世代EGFR-TKIによる治療後に進行した患者の約3人に1人で、高レベルのMET過剰発現または増幅(IHC3+>90%、FISH10+)が生じるとされる。SAFFRONの患者選択に用いられたこの高METカットオフ値は、第II相SAVANNAH試験で特定されたものだ。
SAFFRONはランダム化非盲検・多施設の国際第III相試験で、タグリッソ80mg1日1回にオルパシー300mg1日2回を追加する群と、プラチナ2剤併用化学療法群を比較した。対象は1次または2次治療としてタグリッソ投与後に進行したEGFR変異陽性の局所進行・転移性NSCLC患者338例。北米、欧州、南米、アジアを含む29カ国230施設で組み入れが行われた。
試験責任医師である上海交通大学医学院附属胸科病院・上海肺がんセンターのShun Lu教授は「オシメルチニブ後に高レベルのMET駆動耐性を示すEGFR変異NSCLC患者の3分の1について、新たな世界的標準治療を確立する可能性がある」とし、「現時点では、忍容性が高く、経口で、バイオマーカーに基づく治療選択肢は存在しない」と述べた。
業界にとっての意味
SAFFRONは、この設定でPFSとOSの双方に有意なベネフィットを示した初のグローバル第III相試験と位置づけられている。EGFR-TKI後の耐性機序に対して、注射を伴わない経口のバイオマーカー指向型レジメンが選択肢となりうる点が、既存の化学療法との最大の違いだ。Lu教授が「患者ケアを導くMET検査の必要性」に言及したように、治療選択の前提としてIHCとFISHによるMETステータス評価の重要性が一段と高まる。
規制面では、SAFFRONの結果に基づき、EGFR-TKI治療中または治療後に進行したMET過剰発現または増幅を有する局所進行・転移性NSCLCを対象に、タグリッソ+オルパシーの新薬承認申請(NDA)が米国FDAに提出された。中国では第III相SACHI試験に基づき、EGFR-TKI後に進行したMET増幅を伴うEGFR変異陽性非扁平上皮NSCLCへの併用がすでに承認済み。スイスでは第II相SAVANNAH試験に基づく暫定的承認が与えられている。
アストラゼネカのオンコロジー・血液R&D担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、Susan Galbraith氏は、タグリッソという基盤治療にオルパシーを組み合わせることでEGFR抑制を維持しつつMET駆動耐性に直接対処できると説明。HUTCHMEDの最高経営責任者代行兼最高財務責任者Johnny Cheng氏も、両社の提携が標準治療を塗り替えうる成果を生み続けていると述べた。オルパシーはアストラゼネカとHUTCHMEDが共同開発し、アストラゼネカが販売を担う。
なお、中国でのEGFR変異・MET過剰発現の未治療患者を対象とした第III相SANOVO試験の結果は、ESMO会期翌日のProffered Paperセッションで発表される(abstract #LBA69)。一次治療から後治療まで、MET軸への介入がどこまで広がるかが次の焦点となる。