何が起きたか
アストラゼネカは2026年10月24日、第III相VOLGA試験の良好な結果を公表した。筋層浸潤膀胱がん(MIBC)のうち、シスプラチンベースの化学療法に不適応、またはこれを拒否した患者を対象に、周術期のImfinzi(デュルバルマブ)と術前のエンホルツマブ ベドチン(EV)を併用したレジメンが、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)と、主要な副次評価項目である全生存期間(OS)の両方で、標準治療に対し統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。
結果は同日、スペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2026のPresidential Symposium Iにおける口演(abstract #LBA2)で発表され、同時にThe New England Journal of Medicineに掲載された。
数字で見る結果
データカットオフは2026年3月2日。計画された中間解析において、Imfinzi併用群はEFSのイベント(病勢進行、再発、手術未施行、死亡)リスクを対照群比で49%低下させた(ハザード比[HR]0.51、95%信頼区間[CI]0.38-0.67、p<0.0001)。推定EFS中央値はImfinzi併用群では未到達(95% CI 33.2-算出不能)、対照群は12.1カ月(同7.6-27.0)。24カ月時点のEFS率はそれぞれ64%と45%、12カ月時点では73%と50%だった。イベントが発生した患者は併用群233例中84例(36%)、対照群229例中123例(54%)。
OSについては、Imfinzi併用群が死亡リスクを42%低下させた(HR 0.58、95% CI 0.40-0.83、p=0.0027)。OS中央値は両群とも未到達。24カ月時点のOS率は併用群78%、対照群69%、12カ月時点では87%と81%だった。死亡例は併用群49例(21%)、対照群74例(32%)。
統計学的有意性の判定基準は、EFSではLan-DeMets型アルファ消費関数(O'Brien-Fleming境界)に基づき、観察イベント数での境界値は両側全体アルファ2.7%に対して0.0218、OSではGamma family(-3)消費関数に基づき、両側全体アルファ5%に対して0.0104とされた。
安全性は各薬剤の既知のプロファイルと一致し、新たな安全性シグナルは認められなかった。全ての原因によるグレード3・4の有害事象は、Imfinzi併用群で64%、対照群で44%に発現した。術後の患者報告による生活の質(QOL)は維持された。
試験の設計と背景
VOLGAは第III相の無作為化非盲検・多施設国際共同試験で、根治的膀胱全摘除術を受けるMIBC患者のうちシスプラチン不適応または拒否の患者を対象に、周術期ImfinziにImjudo(トレメリムマブ)を併用する/しないレジメンと術前EVの組み合わせを、根治的膀胱全摘除術(承認済み術後補助療法の有無を問わない)と比較した。695例が1:1:1で3群に無作為割り付けされた。Arm 1は術前にImfinzi+EV 3サイクルとImjudo 2サイクル、術後にImfinzi 9サイクル+Imjudo 1サイクル。Arm 2は術前にImfinzi+EV 3サイクル、術後にImfinzi単剤9サイクル。Arm 3が対照群である。試験は欧州・北米・南米・アジアの25カ国182施設で実施された。
背景として、膀胱がんは世界で8番目に多いがんで、年間63万5,000例超が診断される。膀胱がん患者の約4人に1人が、遠隔転移のない筋層浸潤性の病態を有する。2026年にはおよそ10万6,500人がMIBCの治療を受けるとされる。2025年には第III相NIAGARA試験により、術前シスプラチンベース化学療法と根治的膀胱全摘除術に周術期Imfinziを加えるレジメンが新たな標準治療として確立された。しかし腎機能障害や併存疾患により、最大で半数の患者がシスプラチンの適応とならない。これらの患者の標準治療は歴史的に根治的膀胱全摘除術単独であり、大きな侵襲を伴う手術を受けてもなお再発率が高く、予後は不良だった。
VOLGAの国際コーディネーティング治験責任医師であるBarts Cancer Centre(Barts Health NHS Trust、ロンドン)のThomas Powles教授は「MIBCの患者は人生を変える膀胱摘出手術を必要とするが、それでも約半数で再発する」とした上で、今回のレジメンについて「診療を変える結果であり、この領域における患者中心の新たな標準治療となり得るアプローチを支持する」と述べた。アストラゼネカのオンコロジー・ヘマトロジーR&D担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、Susan Galbraith氏は「4分の3を超える患者が2年後も生存しており、QOLも維持された」とし、「筋層浸潤性・非筋層浸潤性膀胱がんを通じたImfinziの免疫療法バックボーンとしての可能性を補強する」と語った。
業界にとっての意味
MIBCの治療選択は、シスプラチンが使えるかどうかで大きく分かれてきた。NIAGARAで確立された周術期Imfinzi+シスプラチンベース化学療法は、シスプラチン適応患者向けに50カ国超で承認されている一方、最大半数を占めるシスプラチン不適応患者には手術単独という選択肢しかなかった。VOLGAは、この空白地帯に対して抗体薬物複合体と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせで応えた試験であり、根治を目指す領域で化学療法を前提としないレジメンが有効性を示した点に意義がある。
規制面はすでに動いている。2026年9月、米食品医薬品局(FDA)は本試験の結果に基づき、シスプラチン不適応または拒否のMIBC患者に対する周術期Imfinzi+術前EVに優先審査を指定した。
また、Imfinziの膀胱がん領域での展開は筋層浸潤性にとどまらない。POTOMAC試験に基づき、BCG未治療の高リスク非筋層浸潤性膀胱がんに対してBCG導入・維持療法との併用が米国、日本などで承認済みで、2026年7月には第III相NILE試験で、PD-L1高発現の切除不能な局所進行・転移性尿路上皮がんの1次治療としてImfinzi+化学療法がOSを有意に改善したとのトップライン結果が示された。病期を横断して同一の免疫療法バックボーンを置くという戦略が、膀胱がん領域で具体化しつつある。
なお、Imfinziは2017年5月の初回承認以来、47万人を超える患者に投与されている。