何が示されたか
コンサルティング会社Simon-Kucherは2026年10月22日に公開したブログで、海外の医療機器が中国市場に届くまでの遅れと、それを前倒しする「早期アクセス」制度の現状を整理した。中国で発売された輸入革新的医療機器に関する調査によれば、米国での発売と比べた中国での発売の遅れは平均4.4年だという。
ブログが挙げた個別の例は次の通り。MedtronicのMicra TPSは2015年(EU承認)に対し中国は2019年で約4年、Boston ScientificのWATCHMAN FLXは2019年(EU承認)に対し2022年で約3年、Edwards LifesciencesのSAPIEN 3は2014年(EU承認)に対し2020年で約6年、AlconのAcrySof Vivity IOLは2020年(米国承認)に対し2023年で約3年、ZAP Surgical SystemsのZAP-X Radiosurgery Systemは2017年(米国承認)に対し2023年で約6年の遅れとなっている。
ブログは、この差が生じる原因は規制当局への申請よりかなり前の段階から積み上がると指摘する。製品によっては、NMPA申請前に中国向けの製品構成の確定、試験用サンプルの確保、デジタル機能の適合、現地のクラウド・データ体制の整備といった中国固有のローカライズと検証が必要になる。そのうえで、機器分類の確認、海外臨床エビデンスの妥当性評価、添付文書や製品試験報告書などの資料作成といった申請パッケージの準備が続く。
三つの経路とその違い
中国には現在、全国的な登録前に、選ばれた海外医療機器が患者に届く仕組みが複数ある。ただし成熟度と適格要件は大きく異なる。
博鰲楽城は最も確立した枠組みの一つで、海外で承認済みかつ臨床上緊急に必要な製品が、現地の評価と承認を経て、資格を持つ医療機関を通じて導入される。これまでに330を超える医療機器が博鰲に入り、例としてAllergan XEN Gel Stent、ZEISS VISUMAX 800がある。運用中の医療機関は約30、人口規模は約900万人で、全国から患者が集まる。2023年以降は、対象となるモニタリング・リハビリ・在宅治療機器について、規制された持ち帰り経路のもとで院外に持ち出すことが可能になった。
粤港澳大湾区(GBA)の「港澳医薬機器通」は別のモデルをとる。対象機器は臨床上緊急に必要であることに加え、香港またはマカオの公立病院で調達・使用された実績と、臨床応用上の先進性を示す必要がある。2026年半ば時点で71の指定医療機関が参加し、95の医療機器製品が導入を承認された。指定医療機関は4次にわたり計71病院、人口規模は約8,600万人で、主に域内の患者が対象となる。
全国的な経路も形になり始めている。2024年、NMPAと国家衛生健康委員会は、資格を持つ医療機関が海外で販売済みかつ臨床上緊急に必要な一部の医療機器について、一時的な輸入・使用を申請できる全国的な要件を示した。北京はその後、臨床ニーズ主導のグリーンチャネルを設け、共同評価、再輸入時の評価の簡素化、通関の円滑化で支える実施枠組みを導入。上海も2025年に同様の枠組みを導入した。北京ではJ&JのImpella pVADが事例として挙がる一方、上海は機器の先例がまだ出始めた段階で、人口規模は約2,200万〜2,400万人。ブログは、これらを博鰲やGBAと同等の成熟度とみなすべきではないとしつつ、海外の革新技術への管理された早期アクセスが中国の規制環境に定着しつつある方向性を補強すると位置づける。
「ファーストインクラス」でなくても
ブログは、早期アクセスが未治療領域の画期的技術だけのものだという前提を退ける。重要なのは、特定の患者集団や使用場面に対して十分に説得力のある臨床的改善を示せるかどうかであり、単なる機能の小幅な改良だけでは通りにくい。既存の選択肢で満たされていない患者は誰か、有効性・安全性・アドヒアランス・使いやすさ・臨床ワークフローを実質的に改善するか、という臨床的な論証への翻訳が求められる。
例として挙がったのがCochlearのCI632だ。中国の人工内耳分野は国内外の複数サプライヤーが競合する領域だが、中山大学附属第一病院の医師はMRIでの経過観察を継続する必要がある患者の需要を特定し、磁石を留置したままでの3.0T MRI適合性と、より細く柔軟な電極設計を強調した。この差別化を前面に出した申請は2023年に1か月あまりで承認され、正式発売前に、前海蛇口病院だけで2024年12月までに310人の小児患者が治療を受けた。
リアルワールドエビデンスの使いどころ
RWEも、とくに博鰲で比重を増している。中国は2020年に医療機器の臨床評価におけるリアルワールドデータ利用に関する初の技術指針を出し、2024年には研究デザインと統計解析に関するより詳細な指針を示した。指針は現段階でのRWEの役割を、既存の臨床エビデンスを補うものであり、従来のエビデンス生成を自動的に置き換えるものではないと明確にしている。楽城は2026年の指針で、臨床上緊急に必要な輸入医薬品・機器から得たRWEを中国の登録申請に用いる方法を定め、まず既存の海外エビデンスを評価し、現地エビデンスが答えるべき追加の問いを定義する必要があるとした。
Roche DiagnosticsのElecsysアルツハイマー病CSF検査シリーズでは、海南で生成されたRWEが優先審査経路でのNMPA承認を支えた。2024年9月に博鰲で臨床使用に入りRWE生成を開始し、2025年12月に承認を取得、約15か月だった。中国のRWEは、中国人集団に適したカットオフ値の検証・設定という特定のエビデンスギャップを埋めた。
登録資料以外の価値もある。ZEISS VISUMAX 800は全国承認前の博鰲での早期使用を通じて270件を超える手術に用いられ、中国の眼科医が技術に早期に習熟し、追跡と臨床転帰から実務的な知見が得られた。
業界にとっての意味
ブログが示す論点は、「NMPA承認をどう早めるか」から「中国の準備をどれだけ早く始め、全国発売前にどの経路で価値を生むか」へと広がっている。国内医療機器メーカーの革新力が高まり、多くのカテゴリーで製品サイクルが短くなるなか、差別化された製品でも中国に届く頃にはより厳しい競争環境に直面しうるからだ。博鰲は海外承認を起点に特別アクセスとRWEの環境が比較的整い、GBAは香港・マカオからの橋渡しになる一方で事前使用の要件が厳しく、北京・上海は個別案件性が強い。経路の選択は、グローバルの上市順序、臨床エビデンス、製品構成、想定する医療提供モデルと併せて検討する必要がある、というのがブログの指摘である。