何が示されたか
医師向け専門医相談サービス「Medii Eコンサル」に寄せられた免疫関連有害事象(irAE)に関する症例相談71件を分析した結果、医師が最も判断に迷っていたのは、資材やガイドラインで基準整備が進む「休薬や継続の判断」ではなく、「この症状はirAEなのか」という鑑別と、「どう治療するか」という治療選択だった。
Mediiは今号より、同社独自のデータや事例をもとに製薬企業の情報提供に役立つ分析を届ける定期レポートを開始した。その第1弾のテーマが、がん種や診療科を横断して医師を悩ませるirAEである。
プラットフォームの最新動向
まず前提となる数字から。「Medii Eコンサル」に寄せられた症例相談件数は、2025年12月に2万件を突破し、現在は月1,000件を超える水準で推移している。直近の半期(2026年2〜7月)に寄せられた相談は、前年同期の約1.5倍に増えた。直近では「medパス」との連携により、利用できる医師の裾野も広がっている。
医師向けAI検索「Medii Q」の累計検索数は、正式リリースから1年足らずで20万件を突破。直近の半期では前の半期の約2.3倍の検索数となった。
製薬企業との取り組みも広がっており、直近の半期に進行していたプロジェクトは前年同期の約1.7倍。うちスペシャリティ・コモン(プライマリー)領域のプロジェクトは約3倍に増え、対象となる疾患領域の幅も広がったという。
irAE相談71件の内訳
分析の対象は、2024年8月から2026年7月までの2年間にMedii Eコンサルへ寄せられたirAE関連の症例相談71件。
相談した医師の所属地域は関西25件(35.2%)、関東23件(32.4%)を中心に全国から寄せられ、所属施設は病院が62件(87.3%)、クリニックが6件(8.5%)だった。診療科は呼吸器内科・消化器内科・腫瘍内科・内分泌内科をはじめ計11科にわたる。
相談症例の原疾患は、肺がんが28件(39.4%)で最多。肝細胞がん・胆道がんが13件(18.3%)、消化管がん(食道・胃・大腸)が8件(11.3%)、腎・尿路がんが6件(8.5%)と続いた。irAEの発現臓器は全身・その他が12件(16.9%)、肝・胆道が11件(15.5%)、内分泌が9件(12.7%)と、単一臓器に偏らず臓器横断的だった。
相談を主たる論点ひとつで分類すると、irAEの治療選択が23件(32.4%)、irAEの鑑別が19件(26.8%)。この2つで約6割を占めた。一方、ICIの再投与・再開判断は8件、約1割にとどまった。
相談解決直後のアンケート(回答17件・複数回答可)では、16件(94.1%)で医師の認識や行動に何らかの変化があったと報告された。最多は「診断方針の見直しを検討した/鑑別の選択肢が増えた」の52.9%、次いで「疾患について理解が深まった」が41.2%、「疾患について新しい情報を得た」「薬剤や治療法について新しい情報を得た」がそれぞれ35.3%だった。相談医の満足度は平均4.7点(5段階・評価のあった62件)。
背景:処方科の外に広がるirAE
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は適応拡大が進み、肺がん、肝細胞がん、消化管がん、腎・尿路がんなど多くのがん種で使われるようになった。これに伴い、irAEは特定の薬剤やがん種に限らず、がん診療全体にかかわるテーマになっている。
irAEは甲状腺機能異常などの内分泌障害、間質性肺炎、大腸炎、肝障害、皮膚障害など全身のさまざまな臓器に起こりうる。そのため診療は複数科にまたがり、ICIを処方する医師とirAEの診療にあたる医師が異なることも少なくない。今回、11もの診療科から相談が寄せられたことは、この構造を裏づけている。
意味:情報提供の設計が問われる
レポートは、この分析から製薬企業の情報提供について3つの視点を示した。
第一に「どの判断を支えるか」。Grade別の休薬・再開基準は資材やガイドラインで整備が進み、現場にも一定程度浸透していることがうかがえる。残る課題は、症状が本当にirAEなのか(併用薬による有害事象、感染症、原疾患の進行ではないのか)という見極めと、治療の組み立てだ。鑑別の着眼点、検査の進め方、専門医へつなぐ目安といった情報へのニーズは今後さらに高まると考えられる。
第二に「誰に届けるか」。irAEは処方科の外で診られることも多い有害事象であり、処方科を単位とした情報提供だけでは、実際に連携する他科の医師に届きにくい。院内の連携先となる診療科まで含めた情報設計が求められる。
第三に「どのように届けるか」。相談後の変化として鑑別の選択肢の増加や疾患理解の深まりが上位に並んだことから、個別製品の情報に加え、irAEという病態そのものや鑑別から治療に至る診療プロセスへの理解を深める情報が鍵になる。方針決定が診療科を越えた検討と合意形成で進む以上、企業の情報は、関わる医師が同じ前提に立って話し合うための土台としても活用されうる。
Mediiは、この構造はirAEに固有のものではないとしている。新たな薬剤の上市や治療選択肢の多様化に伴い、ガイドラインや論文などの形式知では判断しきれない症例は増えていく。医師がどの場面で立ち止まり、何を必要としているのか——処方データにも市場調査にも残りにくいその「思考プロセス」を、どう情報提供に還元するかが問われている。