何が公表されたか
ノボノルディスクは2026年10月28日、米ニュージャージー州プレインズボロとデンマーク・バウスバーズ発のリリースで、米国肝臓病学会(AASLD)の年次集会「The Liver Meeting® 2026」において、セマグルチドのリアルワールドデータおよび臨床試験データに関する12件の新規アブストラクトを発表すると発表した。会期は11月5〜9日、開催地は米コロラド州デンバー。
発表の柱は三つある。第一に、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)患者におけるセマグルチド2.4mgとレスメチロムの有効性を比較した後ろ向きコホート研究「PLATINUM-Truveta」。第二に、BMIが27kg/m²未満のMASH患者を対象とした第3相ESSENCE試験の事後解析。第三に、治験薬efruxifermin(EFX)に関する4演題で、うち1件は口頭発表、第2b相SYMMETRY試験(代償性MASH肝硬変)の新規解析を含む。
PLATINUM-Truvetaは、米国30の医療システムから得られた匿名化電子カルテデータを用い、2021年6月から2026年3月までを対象とした観察研究。セマグルチド2.4mg開始群2,873例と、レスメチロム開始群2,285例を比較し、ALT、AST、体重、HbA1c、血小板、中性脂肪、HDL、LDLのベースラインからの変化を3カ月時点と6カ月時点で評価した。肝硬変やその他の慢性肝疾患、既にいずれかの薬剤を使用していた患者は除外され、各時点で治療継続が条件とされた。交絡低減のため、治療の逆確率重み付けを伴う一般化推定方程式が用いられている。この演題は提出ポスターの上位10%に与えられる「Poster of Distinction」に選定され、11月6日13:00〜14:00のポスターセッション(演題2461)で発表される。
もう一つのリアルワールド研究「RHODIUM-2」は、同じTruvetaデータベースを用い、セマグルチド2.4mgを開始したMASH患者2,479例と、開始しなかった70,702例を比較。ALT、AST、体重、HbA1cなどの変化を3、6、12カ月で評価している。
背景にあるもの
セマグルチド2.4mgは、中等度〜進行した肝線維化(F2〜F3)を伴うMASH成人に対し、肝硬変を除く対象で米FDAから迅速承認を受けている。迅速承認はMASHと線維化の改善に基づくもので、この適応の承認継続は検証試験における臨床的ベネフィットの確認・記述に依存しうる、とリリースは明記している。
その検証にあたるのがESSENCE試験である。1,197例を2:1で無作為化し、標準治療に上乗せして週1回皮下投与のセマグルチド2.4mgまたはプラセボを240週投与する2部構成の第3相試験。パート1は最初に無作為化された800例の生検に基づき72週時点の肝組織所見の改善を示すことを目的とし、進行中のパート2は240週時点での肝関連臨床イベントのリスク低減を主要目的とする。今回発表されるのは、このESSENCEのBMI 27未満集団を対象とした事後解析(口頭発表0072、11月8日11:45〜12:00)である。
MASHは2億5,000万人以上が罹患しているとされ、進行期の患者数は2015年から2030年にかけて160%超増加すると見込まれている。MASH患者の40%超が2型糖尿病を、8割超が肥満を併存し、MASH患者の約90%が未診断のままだという。研究開発責任者のMartin Holst Lange氏は「MASHは認識されず診断されないことが多く、肝障害が時間とともに進行してしまう。より早い診断と治療が必要だ」と述べている。
業界にとっての意味
今回の構成が示すのは、承認済みの適応を支える証拠を、臨床試験の外側へ広げる動きである。PLATINUM-Truvetaは、実臨床下でセマグルチド2.4mgとレスメチロムという現時点でのMASH治療選択肢を直接比較する内容で、処方現場の関心に近い。ただしノボ自身が、リアルワールドデータ解析には複数の限界があり、関連は示せても因果関係は確定できないこと、未測定の交絡、両剤とも承認が比較的新しいための追跡期間の短さ、電子カルテのコーディング精度の問題がありうることを明示している。事後解析についても「仮説生成的であり、臨床的妥当性の検証にはさらなる研究が有用」と付記されている。
もう一つの軸が、肥満を伴わないMASHへの関心である。BMI 27未満の集団を切り出した解析は、肥満治療薬としての文脈とは別に、肝臓そのものへの作用をどう示すかという問いに関わる。
パイプライン側では、efruxiferminの4演題に加え、アルコール関連肝疾患(ALD)でzalfermin、カグリリンチド、セマグルチドの非侵襲的線維化バイオマーカーへの影響を見た第2相無作為化試験の口頭発表(0087、11月8日11:00〜11:15)も予定される。efruxiferminではSYMMETRY試験のAIベース組織解析が口頭発表0066(11月8日14:30〜14:45)として採択された。代償性肝硬変という、セマグルチド2.4mgの現行適応が及ばない領域にデータが置かれている点は、ポートフォリオの構えを読む材料になる。
このほか、MASLDとALDにおける医療資源利用、FIB-4指数で層別化した経済的負担、医療者と患者側の疾患認知度調査なども発表される。