何が公開されたか
Evaluateは2026年10月28日、レポート/eBook「Reading the Signals: Applying Pharma Productivity Benchmarks to Competitive Intelligence」を公開した。業界レベルの生産性ベンチマークを、競争情報(CI)チームが競合他社の動きを読み取るための「シグナル」へと変換する手順を示した内容である。
前提として示されているのは、Norstellaの2026年版「Pipeline-to-Patient Productivity Index(P3i)」の結果だ。資料によれば、医薬品のR&Dは以前より遅く、そしてコストのかかるものになっている。1つの新薬あたりのコストは2倍以上に増加し、開発期間は10年に向かいつつある。第I相を通過する候補品の数は減り、第I相から承認までの道のりは期間中央値で9.3年に達している。
P3iそのものについては、資料に定義が記されている。主要バイオ製薬企業25社を対象とし、「speed of innovation(革新のスピード)」「development risk(開発リスク)」「market access(市場アクセス)」「commercial return(商業的リターン)」という4つの連続した段階を追う業界レベルのベンチマークである。Norstellaが保有するパイプライン、投資、予測、市場アクセスの各データを統合して作成され、年次で更新される。
今回の報告書が扱うのは、このうち「革新のスピード」と「開発リスク」の2領域にとどまる。市場アクセスと商業的リターンについては、P3iの完全版レポートで扱われると説明されている。
報告書の構成と手順
報告書は、腫瘍領域から2つの事例を取り上げ、業界ベンチマークの数値から個別競合企業の姿へと視点を降ろしていく構成をとる。扱うテーマは革新のスピードと開発リスクの2つだ。
それぞれの事例では、4ステップのプロセスが用いられる。CIチームがデータを掘り下げ、主要な競合のトレンドを追い、それが戦略的な選択によるものか運用上の優位によるものかを判断し、最終的に予測の前提条件を引き締める、という流れである。
収録内容として挙げられているのは次の各項目だ。パイプライン創出、開発期間、第I相成功率に関するP3iの主要な結果。腫瘍領域の開発期間と第I相成功率が業界全体の姿とどう比較されるか。スピードと脱落(attrition)が食い違う地点を、企業名を挙げてフェーズ単位まで示した事例。競合のペースが戦略的選択の反映なのか、それとも運用上の優位なのかを見分ける方法。そして、自社をベンチマークする方法を含む、競合のタイムライン予測を立てるための6つの着眼点である。
さらに報告書は、初期パイプラインが薄くなっていることが競合の将来の上市について何を示唆するのか、また企業レベルの第I相データが、特定の治療領域に固有のシグナルとポートフォリオ全体にわたる規律とをどう切り分けるのか、という点も検討している。
関連コンテンツとして、Kelly ChamberlainとAdam Schaffnerの両氏が報告書の内容と事例を解説するオンデマンドウェビナー「Reading the Signals: A CI Conversation on Pharma Productivity Benchmarks」が用意されている。また、この水準の分析を支える基盤として、パイプラインの全行程をカバーするNorstellaのデータと、競合のタイムラインおよびパイプライン監視に対応する「Atlas CI」が挙げられている。
業界にとっての意味
今回の報告書が示しているのは、業界平均としてのベンチマーク数値を、そのまま「業界全体が遅くなった」という一般論で終わらせないという発想である。9.3年という期間中央値や、第I相を通過する候補品の減少は、業界の総体を表す数字にすぎない。報告書が設計しているのは、そこから個別企業のフェーズ単位の実像へと降りていく経路だ。
注目すべきは、競合のペースを「戦略的選択」と「運用上の優位」に切り分けようとしている点だろう。同じく開発が速い企業であっても、着手する領域や案件の選び方でそうなっているのか、実行能力そのものが高いのかでは、自社が取るべき対応は変わる。資料が4ステップの最後に「予測の前提条件を引き締める」ことを置いているのは、この判別が最終的に自社の予測精度に直結するという立て付けによる。
また、初期パイプラインの厚みを競合の将来の上市を読む材料として扱う視点も、報告書の軸の一つである。第I相の段階で起きていることは、承認や上市という目に見える出来事よりはるかに早く現れる。資料が問いかけている「launch timing planning(上市タイミングの計画)にとってこれは何を意味するか」という論点は、そのまま予測業務の時間軸の取り方に関わる。
P3iが年次更新のベンチマークであること、そして対象が主要25社に限られていることは、使う側が前提として押さえておくべき条件でもある。報告書は自社をベンチマークする方法にも触れており、他社分析の道具であると同時に、自社の生産性を業界の尺度に照らす枠組みとしても位置づけられている。