何が公表されたか

小野薬品工業(本社:大阪市中央区、代表取締役社長COO:滝野十一)は2026年10月29日、自社創製の経口内因性カンナビノイド制御剤ONO-1110について、5つの適応症を対象に実施した第2相臨床試験の結果を公表した。

対象は、帯状疱疹後神経痛(PHN)、線維筋痛症(FM)、ハンナ型間質性膀胱炎(HIC)、うつ病(MDD)、社交不安症(SAD)の5疾患。このうちPHN、FM、HICを対象とした3試験で、ONO-1110の有効性シグナルを確認したとしている。

ただし、この3試験はいずれも主要評価項目を達成していない。会社の説明によれば、PHNを対象としたONO-1110-04試験、FMを対象としたONO-1110-05試験、HICを対象としたONO-1110-06試験の3試験は主要評価項目を達成しなかったものの、事前に規定した層別解析および探索的な事後解析において、疼痛スコア(NRS)の改善を示唆する有効性シグナルが認められた。

一方、MDDとSADの試験では有効性シグナルは認められず、今後の開発は行わない予定としている。

安全性については、5試験すべてでONO-1110の良好な安全性プロファイルが示された。各試験の詳細な結果は、今後学会などで発表する予定という。

3つの試験の設計

継続判断の根拠となった3試験は、いずれも日本で実施された多施設共同プラセボ対照無作為化第2相臨床試験で、プラセボを対照にONO-1110の有効性、安全性、忍容性および薬物動態を評価することを目的としている。

ONO-1110-04試験(PHN)は目標患者数140名で、ONO-1110あるいはプラセボを1日1回8週間経口投与した。ONO-1110-05試験(FM)は目標患者数160名で、同じく1日1回8週間の経口投与。ONO-1110-06試験(HIC)は目標患者数50名で、投与期間は1日1回12週間と、他の2試験より長く設定されている。

ONO-1110という薬剤と、狙う領域

ONO-1110は小野薬品が創製した経口投与可能な内因性カンナビノイド制御剤である。内因性カンナビノイドは生体内で産生される物質で、疼痛や情動など中枢神経系における様々な生理機能の調節に重要な役割を果たすことが知られている。

ONO-1110は、疼痛伝達などの神経活動に応じて産生される内因性カンナビノイドを制御することで痛みをコントロールする。体内にもともと備わっている機構を制御するという作用の性質から、副作用を回避しつつ鎮痛作用を発揮できる、新たな慢性疼痛治療薬となることが期待されている、というのが会社の説明だ。

今回継続対象となった3疾患は、いずれも既存治療の限界が指摘されてきた領域である。PHNは水痘・帯状疱疹ウイルスによる神経障害を原因とする神経障害性疼痛で、持続的な痛みや突発的に電気が走るような鋭い痛みを特徴とし、しばしばアロディニアも伴う。現在の治療は症状の緩和を目的とした薬物療法が中心だが、副作用の影響により十分な治療を受けることができない場合があり、安全性と有効性を兼ね備えた新たな治療薬の開発が望まれている。

FMは身体の広範な部位に生じる原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主徴候とし、多彩な身体、神経・精神症状を伴う。現在の治療薬では十分な症状緩和が得られず、中枢性の副作用が発現する課題があることから、新しい作用機序を持つ治療薬が望まれている。

HICは「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群」のうちハンナ病変のあるものを指す。原因は不明で、頻尿や膀胱痛による苦痛から生活の質の低下を招く。現時点において、有効性ならびに安全性の高い経口治療薬は存在していない。

意味するもの

今回の発表で輪郭が見えたのは、ONO-1110の開発方針が「疼痛」に絞り込まれたという点である。5つの第2相試験という幅広い探索から、情動領域(MDDとSAD)を切り離し、PHN・FM・HICという疼痛を主徴とする3疾患に資源を集中させる形になった。内因性カンナビノイドが疼痛と情動の双方に関わるという前提で広くシグナルを探した設計だったが、結果として情動側では有効性シグナルが得られなかった。

もう一つの論点は、3試験がいずれも主要評価項目を達成していないにもかかわらず、次の臨床試験が計画されている点だ。根拠は、事前規定の層別解析と探索的事後解析で確認された疼痛スコア(NRS)の改善シグナルである。事前に層別解析が規定されていたこと、そして5試験すべてで良好な安全性プロファイルが示されたことが、開発継続の判断を支える材料になっている。次の臨床試験で、どの患者集団を、どの評価項目で検証するのか——その設計が、このプログラムの行方を左右することになる。

各試験の詳細な結果は今後学会などで発表される予定であり、シグナルの中身がどの程度のものかは、その時点で改めて検証されることになる。