何が発表されたか

Johnson & Johnson(NYSE:J&J)は2026年9月29日(米ペンシルバニア州)、全身型重症筋無力症(gMG)治療薬IMAAVY®(ニポカリマブ-aahu)について、2026年米国重症筋無力症財団(MGFA)科学セッション及び米国神経筋電気診断学会(AANEM)年次総会で発表される15件の新たな抄録を公表した。中心となるのは、青年患者を対象とした第Ⅱ/Ⅲ相試験の2年間の結果と、米国の医療従事者を対象とした後方視的調査である。

なお本件は米国本社発表の抄訳版であり、日本国内で未承認の情報を含む。日本においてIMAAVY®は、全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)の治療薬として承認されている。米国及び欧州では、抗AChR抗体又は抗MuSK抗体が陽性の成人及び12歳以上の小児患者を対象に承認されている。

青年患者の2年データ:第108週時点の数値

第Ⅱ/Ⅲ相Vibrance-MG試験(NCT05265273)の長期延長試験における2年間の解析では、抗AChR抗体陽性のgMG青年患者において疾患の持続的なコントロールが認められ、同時に副腎皮質ステロイド使用量の継続的な減少が確認された。J&Jは、これらが第Ⅲ相Vivacity-MG3試験の非盲検延長試験で成人に観察された改善と一致するとしている。

具体的な数値は次の通り。データが得られた参加者において、第108週時点のベースラインからの平均変化量は、MG-ADLで-2.88ポイント、QMGで-8.25ポイントだった。これは第4週、第24週、及び2年間のすべての経過時点での解析結果と一致していた。MG-ADLは合計スコア0〜24、QMGは0〜39で、いずれもスコアが高いほど重症度が高いことを示す指標である。

副腎皮質ステロイドについては、試験開始時に服用していた青年患者6例のうち、IMAAVY®投与開始から2年後に3例が減量、1例が投与を中止している。安全性では、2年間の治療期間を通じて新たな安全性シグナルは認められず、青年患者における安全性プロファイルは成人患者で報告されたものと同様だった。

Vibrance-MG試験は、スクリーニング時にMGFAクラスII〜IVと診断され、継続中の安定した標準治療に十分な臨床的反応が得られていない12〜17歳の7人が参加する非盲検試験である。主要評価項目は24週における血清総IgG低減効果、安全性及び忍容性、薬物動態で、副次評価項目は24週時点のMG-ADLスコア変化量及びQMGスコア変化量とされている。

MDAの支援を受ける小児神経筋プログラム及び神経筋クリニックのディレクターであるJonathan Strober医師は、予測不可能な筋力低下や眼瞼下垂、複視といった症状が「学校生活や友人関係、そして成長に伴う自立への道を妨げる恐れすらある」とした上で、2年間の結果が蓄積しつつあるエビデンスを補強するものだとコメントしている。なお同医師はJ&Jに対しコンサルティング等のサービスを提供してきたが、メディア関連活動に関する報酬は発生していない。

切り替え調査が示した「症状の変動」

もう一つの発表は、抗AChR抗体陽性又は抗MuSK抗体陽性の成人gMG患者を治療する医療従事者を対象とした後方視的調査である。これは米国の神経科医療従事者を対象とした21項目の電子アンケートに基づくもので、回答者は診療記録を確認し、97例の患者に関する匿名化データを報告した。対象は、IVIG、抗CD19療法、補体阻害剤、又はその他のFcRn阻害剤といった先進療法から切り替えた経験を持つ医療従事者である。

結果として、前治療の中止につながる最も一般的な要因は「症状の変動に対するコントロール」(54.6%)だった。IMAAVY®の投与開始理由としては、一貫した治療スケジュールが好ましいという点(62.9%)、有効性の向上が期待される点(56.7%)が最も多く挙げられた。切り替え後の転帰については、医療従事者の報告で患者の73.2%が「かなり改善」又は「非常に改善」とされ、プレドニゾンを投与されていた患者の76.4%が減量、5.5%が投与を中止している。

ただしJ&Jは調査の限界も明記している。医療従事者の報告と後方視的な診療記録の検討に依存するため情報バイアスや記憶バイアスの影響を受けている可能性があること、便宜的抽出のため一般化可能性が限られること、横断的研究デザインであるため長期的傾向や因果関係の結論は導けないことである。

業界にとっての意味

今回の2本のデータは、いずれも「持続的な疾患コントロール」という同じ論点に収束している。J&Jのグローバル免疫学治療領域責任者David M. Lee医師は、症状の変動に悩まされる患者にとって持続的な疾患コントロールが重要な治療目標であると述べ、青年期から成人までの幅広い患者層におけるエビデンスがその可能性の理解を深めるとしている。

製品面では、IMAAVY®はFcRnを標的とし、B細胞の機能を維持しつつ病原性IgGを減少させるよう設計された免疫選択的治療薬で、抗AChR抗体又は抗MuSK抗体陽性のgMG小児患者(12歳以上)に対してFDA及びEMAにより承認されている唯一のFcRn阻害薬とされる。小児のような治療選択肢がより限られる集団で2年間のデータが積み上がった点は、年齢層を広げた位置づけの根拠となる。

またニポカリマブは、リウマチ性疾患、希少自己抗体疾患、母体同種抗体が関与する母体・胎児疾患の3分野で研究が進められており、FDAのファストトラック指定はgMG(2021年12月)、FNAIT(2024年3月)、SjD(2025年3月)、SLE(2026年1月)へと広がっている。優先審査はgMG(2024年第4四半期)、wAIHA(2026年第2四半期)で適用された。gMGで積み上げたエビデンスが、自己抗体関連疾患という広い枠組みの中でどう展開されるかが次の焦点になる。