米食品医薬品局(FDA)は2026年10月30日、成人の再発性呼吸器乳頭腫症(RRP)の治療薬として、プラスミドDNAベースの免疫療法「Voceryq(doruxapapogene ralaplasmid and lalikinogene sifuplasmid-gxfd)」を迅速承認(accelerated approval)した。プラスミドDNAを用いた免疫療法が米国で承認されるのは初めてとなる。
何が承認されたか
承認を受けたのはInovio Pharmaceuticals, Inc.。適応は、ヒトパピローマウイルス(HPV)によって気道に疣(いぼ)状の増殖物が形成される希少疾患RRPの成人患者である。
Voceryqは組換えプラスミドDNAを用いた免疫療法で、2種類のプラスミド(もとは細菌由来の小さなDNA断片)を体内の細胞に送り込む。一方は特定のHPVタンパク質の遺伝情報を、もう一方はIL-12と呼ばれる免疫応答増強分子をコードする。RRPの原因となるHPVの6型および11型に感染した細胞を、免疫系が認識して攻撃するよう設計されている。
投与は筋肉内注射で、CELLECTRA 5PSPデバイスを用いる。同デバイスは投与と同時にエレクトロポレーションを行い、短い電気パルスで細胞膜に一時的かつ可逆的な孔を作ることで、Voceryqの細胞内への送達を助ける。
承認の根拠となったのは、RRPと診断された成人32人を対象とした非盲検・多施設共同臨床試験である。組入れ条件は、Voceryq投与前の12か月間に喉頭気管乳頭腫の切除手術を2回以上受けていること(試験参加時に予定されていた手術を含む)だった。ベースラインで手術を3回以上受けていた26人のうち7人(27%)が、治療後1年間に手術を要しなかった。
最も多く報告された有害反応は、注射部位反応、頭痛、疲労、高血圧、悪心、めまい。エレクトロポレーションに伴う有害作用としては、一過性の筋収縮やテタニー、投与部位の一時的な出血、不安、立ちくらみやめまいを含む血管迷走神経反応、クレアチンホスホキナーゼの一過性変動、注射部位の紅斑および疼痛が挙げられている。
繰り返す手術という背景
RRPは、HPVの6型および/または11型によって気道に疣状の増殖物(乳頭腫)が生じる希少な慢性疾患である。発生部位は喉頭(声帯周辺)が最も多く、嗄声、慢性の咳、声の変化などの症状を引き起こす。重症例では増殖物が呼吸器の他の部位に広がり、呼吸困難をきたすこともある。
手術で増殖物を取り除くことはできるが、根治はできない。増殖物を除去した後も組織内にウイルスが残存するため、患者は何年にもわたって処置を繰り返す必要がある。症例によっては、時間の経過とともに悪性化するリスクも伴う。
今回の迅速承認は、成人RRP患者で増殖物の切除に要する手術の頻度を減らすという臨床試験データに基づく。これは「臨床的ベネフィットを合理的に予測しうる中間臨床エンドポイント」と位置づけられている。迅速承認制度は、重篤または生命を脅かす疾患について、代替エンドポイントまたは中間臨床エンドポイントへの効果に基づく承認を可能にするものだ。製造販売元は承認後に臨床試験を実施し、Voceryqの臨床的ベネフィットを検証・記述することが求められる。
FDAはVoceryqに対し、画期的治療薬(Breakthrough)指定と希少疾病用医薬品(Orphan Drug)指定を与えている。
何が変わるのか
CBER(生物製剤評価研究センター)のKarim Mikhail所長は、成人のRRP患者が「手術を繰り返す消耗的で容赦のないサイクル」に直面してきたと述べ、今回の承認を「体自身の免疫系を利用してRRPの根本原因と戦うプラスミドDNAベースの免疫療法」という科学的ブレークスルーだと位置づけた。患者にとっては「手術が減り、生活の中断が減り、自分の条件で生きる時間が増えること」を意味しうるとしている。
承認が示す変化は二つの層に分けて考えられる。一つは治療上の位置づけだ。これまでのRRP治療は、増殖物を物理的に除去する手術が中心で、ウイルスが組織に残る以上、処置の反復は避けられなかった。Voceryqは原因となるHPV 6型・11型の感染細胞そのものを標的とするため、治療目標が「取り除く」から「手術の負担を減らす」へと移る。評価指標が手術頻度という中間エンドポイントに置かれたことも、この設計思想を反映している。
もう一つはモダリティとしての意味である。プラスミドDNAベースの免疫療法としては米国初の承認であり、しかも専用デバイスによるエレクトロポレーションを前提とした投与形態が併せて実用化された。医薬品と投与デバイスが一体で評価された事例として、今後の開発の参照点になりうる。
ただし、今回の承認はあくまで迅速承認である。有効性の根拠は32人規模の非盲検試験であり、手術回避の数値も、ベースラインで3回以上の手術歴を持つ26人中7人という限られた母集団から得られたものだ。臨床的ベネフィットの確認は、今後実施される承認後試験に委ねられている。