何が公表されたか
メディカル・データビジョン(MDV)は2026年11月2日、プレスリリース「『糖尿病急性合併症』入院数推移と重症低血糖入院前後の処方実態=MDVデータから見る今月のトピック=」を公開した。11月14日が国際糖尿病連合(IDF)と世界保健機関(WHO)の定める「世界糖尿病デー」にあたり、国内でもこの日を含む1週間が「全国糖尿病週間」とされることを踏まえ、MDVのDPCデータを用いて、2型糖尿病患者における急性合併症(重症低血糖、糖尿病性ケトアシドーシス=DKA、高浸透圧高血糖状態=HHS)による入院の推移と、重症低血糖入院の前後の処方を分析したものだ。
対象期間は2021年1月~2025年12月。対象施設は期間中の全期間のデータを保持する施設で、対象患者は期間中に2型糖尿病の受診がある患者のうち、入院契機病名または医療資源を最も投入した傷病名が急性合併症に該当する入院(教育入院などを除く)である。
入院数の指数は129.1、患者数の113.9を上回る
2021年を100とした2025年の指数は、2型糖尿病患者数が113.9だったのに対し、急性合併症による延べ入院数は129.1となった。区分別ではDKAが139.9で最も高く、重症低血糖は121.8。HHSは2023年に138.7まで上昇した後、2025年は128.0だった。
性別でみると、急性合併症計の2025年指数は女性142.2、男性121.3。女性ではDKAが155.2、重症低血糖が135.6となった。年齢階級別(急性合併症計)の2025年指数は、75~84歳が143.4で最も高く、85歳以上135.4、65~74歳121.0、64歳以下116.0。入院時年齢の中央値は2021年の75歳から2025年は76歳となっている。
5年合計の入院時年齢中央値は、重症低血糖79歳、HHS80歳に対し、DKAは62歳で、DKAは64歳以下が53.7%を占めた。資料は、3つの急性合併症を同一の予防・管理方針で捉えることは適切でない可能性があるとしている。一方で、比較しているのは「患者数」と「延べ入院数」それぞれの指数であり、患者単位の発症率や入院リスクを直接比較したものではない点、入院数の伸びには高齢化や同一患者の繰り返し入院、患者構成の変化が影響している可能性がある点にも言及している。
重症低血糖の入院前処方、インスリンが34.9%
重症低血糖で入院した患者(入院時年齢の中央値79歳、四分位範囲72~85歳)のうち、入院前処方が確認された入院について、延べ処方クラス数に占める構成比をみると、5年合計でインスリン34.9%、DPP-4阻害薬19.0%、BG9.8%、SGLT2阻害薬9.0%、SU薬8.2%。1入院あたりの平均処方クラス数は1.8だった。年次では、SGLT2阻害薬が2021年5.3%から2025年10.9%へ拡大し、DPP-4阻害薬は23.5%から15.8%へ縮小した。インスリンは33.6~37.1%の範囲で推移している。
入院単位の処方パターン(5年合計)は、インスリン単独39.7%、インスリン+他の糖尿病治療薬24.8%、SU薬を含む(インスリンなし)13.0%、グリニドを含む5.0%、上記以外の薬剤のみ17.5%。ただし、入院前処方が確認できなかった入院(なし・不明など)が重症低血糖入院全体の48.1%を占める点には留意が必要だと資料は注記している。
入院前後でSU薬は7.7%→2.7%
入院前・退院後ともに処方が確認された同一入院(重症低血糖入院全体の29.5%)での比較では、延べ処方クラスの構成比はインスリンが入院前35.8%から退院後33.3%へ、SU薬が7.7%から2.7%へ低下した。一方、DPP-4阻害薬は17.2%から21.2%、SGLT2阻害薬は9.3%から11.5%、GLP-1受容体作動薬は4.9%から6.0%へ上昇した。1入院あたり平均処方クラス数は1.9から1.8に減少している。
処方パターンでは、SU薬を含む(インスリンなし)が12.5%から4.1%へ低下し、インスリン・SU薬・グリニドのいずれも含まない「上記以外の薬剤のみ」が13.3%から30.1%へ上昇。インスリン単独は39.6%から32.3%へ低下した。入院前にSU薬が処方されていた入院のうち、退院後もSU薬が処方されていた割合は23.6%だった。
業界にとっての意味
資料は、SU薬を含む処方の減少と低血糖リスクが比較的低い薬剤クラスの構成比の増加から、重症低血糖による入院を契機に治療内容が見直されている可能性を示したとする。他方で、退院後もインスリンを含む処方が約6割(60.6%)を占めており、重症低血糖を経験した後もインスリン治療の継続を要する患者が相当数いるとして、使用薬剤にかかわらず退院後の低血糖再予防が引き続き重要だと整理している。
もっとも、これらの数値は薬剤クラスの構成比であり、個々の患者における中止率や切り替え率を直接示すものではないとも明記されている。DKAの伸びについても、SGLT2阻害薬の使用拡大に伴う正常血糖ケトアシドーシスの影響が一部含まれている可能性に触れつつ、本稿ではDKA入院の背景処方を分析しておらず、検査情報を用いた検討を含めて今後の課題だとした。製薬企業にとっては、クラスごとの処方構成の変化が実臨床の急性イベント患者層にも表れていること、そして区分ごとに年齢層が大きく異なることが、情報提供や適正使用の設計を考えるうえでの手がかりになる。資料は今後の研究課題として、2型糖尿病患者を分母とした入院率の算出や、患者単位での処方変更と再入院・低血糖再発症との関連分析を挙げている。