何が公表されたか
ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq: GILD)は11月2日、カリフォルニア州フォスターシティ発のプレスリリースで、11月8日から11日まで開催される国際HIV薬物療法会議(HIV Glasgow 2026)に参加し、HIV研究開発プログラムから新たな臨床データとリアルワールドエビデンスを発表すると明らかにした。発表されるのは50件を超える試験の結果で、レイトブレイキング(最新)データと2件の口頭発表が含まれる。あわせて同社主催のシンポジウムとコミュニティ・フォーラムも開催される。
内容は、予防・治療・治癒(キュア)研究の三領域にまたがる。
予防領域では、進行中の第2相PURPOSE 5試験(NCT06513312)の1年時点の継続率(persistence)と安全性の成績を発表する。対象は英国とフランスで、これまで連日経口のPrEP(曝露前予防)を利用してこなかった人々であり、年2回投与の注射剤レナカパビル(Yeytuo)と、連日経口のツルバダ(エムトリシタビン200mg/テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩300mg、F/TDF)を比較する。抄録には「英国とフランスにおいて、PrEPとしての年2回レナカパビルが連日F/TDFより継続率が高い」という表題のものが含まれる。
治療領域では、ビクタルビ(ビクテグラビル50mg/エムトリシタビン200mg/テノホビル アラフェナミド25mg、B/F/TAF)の実臨床観察研究BICSTaR(NCT03580668)の成績、第3相ARTISTRY試験群(ARTISTRY-2はNCT06333808)におけるビクテグラビル75mg/レナカパビル50mg(BIC/LEN)の1日1回経口単剤錠への切り替え成績が示される。ARTISTRY-2は、ウイルス学的に抑制され、かつ既存の耐性関連変異をもつ人を対象としている。
パイプラインからは、週1回経口の単剤錠であるイスラトラビル2mg/レナカパビル300mg(ISL/LEN)の第3相ISLEND-1(NCT06630286)、ISLEND-2(NCT06630299)の48週成績と患者報告アウトカム、および治験薬のインテグラーゼ阻害剤GS-3242の第1b相成績が発表される。治癒研究では、HIVリザーバーを標的とする二重特異性T細胞エンゲージャー、アムタバフスプ アルファ(GS-8588)の第1b相(ヒト初回投与)の免疫原性データが示される。
これまでの経緯
リリースによれば、BIC/LENは2026年8月に米FDAから「Bixlenvo」の製品名で承認を取得している。今回のARTISTRY関連の発表は、承認済みレジメンの追加解析という位置づけになる。
GS-3242はレナカパビルとの併用で、年2回投与の注射用治療レジメンの候補として第2相のPULSAR 1(NCT07645287)とPULSAR 2(NCT07708727)で評価が進む。2026年10月にはFDAのファストトラック指定を受けた。ファストトラックは、医療上の未充足ニーズに対応しうる新薬の開発を迅速化するための制度である。
ISL/LENは、メルクのイスラトラビル(HIV-1逆転写酵素のトランスロケーション阻害を含む複数の作用機序をもつ次世代ヌクレオシドアナログ)と、ギリアドのレナカパビル(HIV-1のライフサイクルの複数段階を阻害するファーストインクラスのカプシド阻害剤)を組み合わせたもので、両社の協業に基づく。
同社臨床開発担当上級副社長でウイルス学領域責任者のJared Baeten氏は「幅広く革新的なHIVポートフォリオとパイプラインから新たな研究成果を発表できることを楽しみにしている」と述べ、ギリアドの取り組みの幅と深さが「HIV研究における次の変革的イノベーションを推進する姿勢を示すものだ」とコメントしている。
業界にとっての意味
今回のラインアップから読み取れるのは、投与間隔の長期化を軸にした製品群の整理である。予防では年2回注射、治療では1日1回経口(BIC/LEN)、週1回経口(ISL/LEN)、さらに年2回注射(GS-3242+レナカパビル)と、頻度の異なる選択肢が同時並行で臨床段階に置かれている。リリースが「長時間作用型レジメン」を見出しに掲げているとおり、評価軸は有効性・安全性に加えて、継続率や患者の治療選好といった指標に広がっている。PURPOSE 5が継続率を主要な論点に据え、ISLEND-2で治療選好やQOLの解析、参加者・医療者へのインタビューが行われているのはその表れだ。
日本の関係者にとって直接関わる発表もある。抄録には「日本において、ウイルス学的に抑制され複雑なレジメンを受けているHIV陽性者の人口統計、臨床的特徴、治療パターン:電子カルテを用いたリアルワールドデータベース研究」が含まれる。スペインのCoRISコホートを用いた同趣旨の解析と並んで示されるもので、複雑な多剤レジメンを継続している層を国別に可視化する内容である。単剤錠への切り替え余地がどこにあるかを各国データで示す構図になっている。
また、BICSTaRは併存疾患の負担が大きい人を含む治療歴の有無を問わない集団を対象としており、リリースは「HIV陽性者の平均年齢が上がるなか、併存疾患の管理が臨床ケア上の重要な論点になる」としている。会期中のシンポジウムも「予防のパラドックス」と「HIVとともに良く老いる」の2本が設定されており、高齢化と予防の普及という二つの課題設定が、データ発表の構成とそろえられている。