何が公表されたか
株式会社JMDC(本社:東京都港区、代表取締役社長兼CEO:野口亮)と住友生命保険相互会社(本社:大阪府大阪市、取締役 代表執行役社長:高田幸徳)は2026年11月4日、JMDCが保有する医療ビッグデータを用いた「インフルエンザ実態調査レポート」2026を公表した。
本レポートは約1,000万人規模の医療ビッグデータを分析したもので、インフルエンザの診断・重症化に加え、健康・生活習慣、前シーズンの感染歴、世帯構成や家庭内での診断状況までを横断的に扱っている。重症度は「診断」「肺炎併発」「入院」「重症入院(ICU等)」の4段階で捉え、年齢・地域による違い、歩行習慣や睡眠休養感などの生活習慣との関係、前シーズンの感染歴との関係、家族人数や世帯内の年齢構成と家庭内での診断状況との関係を分析した。両社は、こうした分析により傾向を安定的に把握することが可能になったとしている。レポート全編はJMDCのサイトで公開されている。
主な数字
調査結果の概要は以下のとおりである。
診断発生率 2024-2025シーズンのインフルエンザ診断発生率は10.91%で、100人中約11人が診断を受けた計算になる。肺炎併発、入院、重症入院(ICU等)も一定数発生しており、重症度が高まるほど平均医療費は増加する傾向がみられた。
年齢層 診断は特に5~14歳で発生指数が高かった。一方、肺炎併発や入院、重症入院(ICU等)といった比較的重い状態は、小児に加え、JMDCデータで確認できる60~74歳の高齢層でも発生指数が高い傾向にあった。
生活習慣・既往 歩行習慣がない人、睡眠による休養感がない人は、そうでない人に比べてインフルエンザのリスクが高い傾向にあった。生活習慣病の既往がある人では重症化に関するリスクが高い傾向がみられ、降圧薬使用者は使用していない人に比べ、入院1.76倍、重症入院(ICU等)2.88倍となった。
前シーズンの感染歴 前シーズンに風邪の診断があった人の翌シーズンのインフルエンザ診断発生率は12.3%(診断なしは9.3%)、新型コロナの診断があった人では13.4%(同10.5%)と高かった。一方、前シーズンにインフルエンザの診断があった人では9.9%で、診断がなかった人の11.1%を下回った。レポートは、こうした差には人との接触機会や受診行動、感染後の感染対策・ワクチン接種行動などが影響している可能性があるとしている。
世帯 家族人数が増えるほど「家庭内感染率」は高まる傾向があり、5人以上世帯では51.4%だった。世帯内では5~14歳の小児で初発診断発生率が高い傾向がみられ、子どもが初発者となる割合は、子ども1人世帯で約51~60%、2人世帯で約66~74%、3人世帯で約74~81%と、子どもの人数が多い世帯ほど高かった。
なお本レポートでは、同一世帯内で同一シーズンに複数名がインフルエンザと診断された世帯の割合を便宜上「家庭内感染率」と表記しており、実際の感染経路を特定したものではない。また「初発診断発生率」は、2人以上の世帯に所属する人のうちシーズン中に世帯内で最も早く診断された者を「初発者」とし、所定の年齢区分別の初発者の割合を便宜上そう呼んだものである。
調査の背景
両社は、インフルエンザが毎年流行を繰り返し、家族内感染や重症化による医療負荷が生じている現状を踏まえ、診断および重症化リスク、診断歴や家庭内感染の実態に関するエビデンスを提供することを目的に本調査を実施したと説明している。今回の取組みは、健康・生活習慣や感染歴、家庭内での診断状況といった日常生活に身近な不確実さを、データによって可視化するものと位置づけられている。
住友生命は、保険の役割・価値を拡げ万一の保障にとどまらず顧客のウェルビーイングに貢献する「拡・保険」の考え方のもと、WaaS(Well-being as a Service)をエコシステムとして展開しており、中核となる住友生命「Vitality」の推進に加えオープンイノベーションを進めているとしている。JMDC側は今後も、国内最大級の医療ビッグデータを活用した各種調査を通じ、「社会課題に対しデータとICTの力で解決に取り組むことで、持続可能なヘルスケアシステムの実現」という同社の描く未来の実現と、「データの社会実装」に資する取組を推進するとしている。
業界にとっての意味
今回のレポートの特徴は、インフルエンザを「かかったかどうか」の二択ではなく、診断・肺炎併発・入院・重症入院(ICU等)の4段階で捉え、そこに生活習慣、前シーズンの感染歴、世帯構成という軸を重ねた点にある。降圧薬使用者で入院1.76倍、重症入院2.88倍という数字は、生活習慣病の既往と季節性感染症の重症化を同一のデータ基盤上で結びつけたものであり、慢性疾患領域と感染症領域を分けて考えてきた従来の見方に対して、重なりの存在を具体的な倍率で示している。
また、5人以上世帯の「家庭内感染率」51.4%、子ども3人世帯で初発者が子どもである割合が約74~81%という結果は、対策の単位が個人だけでなく世帯でもありうることを数字で示したものといえる。ただしレポート自身が注記するとおり、これは感染経路を特定した数値ではなく、診断データ上の同時発生を捉えたものである点は読み方の前提となる。
前シーズンの感染歴による差も、風邪・新型コロナの診断歴がある人で翌シーズンの診断発生率が高く、インフルエンザの診断歴がある人では低いという対照的な結果となった。レポートはその要因として接触機会や受診行動、感染後の対策・ワクチン接種行動の影響の可能性を挙げており、医学的な免疫の問題だけでは説明されない行動要因が、レセプトデータ上の数字に現れうることを示している。保険会社と医療データ事業者が共同でこうしたエビデンスを公開する形は、データの用途が研究にとどまらず、生活者向けの情報提供へ広がっていることを示す一例である。