何が起きたか
Genmabは2026年10月28日、再発・転移性頭頸部扁平上皮がん(r/m HNSCC)のPD-L1陽性一次治療を対象とした第III相試験LiGeR-HN1(NCT06525220)について、最初の中間解析で共同主要評価項目である全生存期間(OS)と客観的奏効率(ORR)の両方を達成したと発表した。
独立データモニタリング委員会が評価した中間解析では、OSのハザード比が0.50(95%信頼区間0.37〜0.67、p<0.0001)、ORRのオッズ比が3.17(95%信頼区間2.06〜4.89、p<0.0001)となり、いずれもpembrolizumab単剤に対して統計学的に有意な改善が示された。同社はHPVの感染状況にかかわらず改善が認められたとしている。併用時の安全性プロファイルは各単剤で既知のものと整合し、新たな安全性シグナルは報告されていない。同試験は、petosemtamabとpembrolizumabの併用をpembrolizumab単剤と1:1に無作為化する非盲検・国際共同試験で、副次評価項目には無増悪生存期間(PFS)、奏効期間、安全性、患者報告アウトカムが置かれている。
その2日前の10月26日、スペイン・マドリードで開催されたESMO 2026では、同じ併用療法の第II相試験(NCT03526835)の最新成績が報告された。PD-L1陽性のr/m HNSCCに対しpetosemtamab 1,500 mgを2週ごと、pembrolizumab 400 mgを6週ごとに投与し、有効性評価可能例43例、追跡期間中央値25.5か月で、OS中央値28.2か月、12か月OS率79%、ORR 63%(完全奏効19%)、PFS中央値9.0か月、12か月PFS率40%であった。奏効期間中央値は未到達で、奏効例の55%が24か月時点でも奏効を維持していた。主な有害事象は無力症51%、ざ瘡様皮膚炎51%、発疹49%で、Grade 3〜4の発現率はいずれも7%以下。注入関連反応は38%(Grade 3〜4:7%)だがすべて回復し、Grade 5の有害事象および治療関連死亡は報告されていない。
これまでの経緯
局所切除不能な遠隔転移を有する頭頸部がんの一次治療では、2019年に報告されたKEYNOTE-048試験に基づき、PD-L1陽性例に対するpembrolizumab単剤、またはpembrolizumabと白金製剤・5-FUの併用が標準治療として用いられている。同試験のPD-L1 CPS 1以上の集団におけるOS中央値は、pembrolizumab単剤で12.3か月、化学療法併用群で13.6か月、長期追跡解析でのORRはそれぞれ19.1%、37.2%であった。
petosemtamab(開発コードGEN1158、旧称MCLA-158)は、EGFRとLGR5を標的とするIgG1二重特異性抗体である。共通軽鎖(cLC)型で、CH3領域にDEKK改変を導入して重鎖の組合せを制御し、FcはADCC増強型(GLYMAXX)に設計されている。解離定数はEGFRに対して0.2 nM、LGR5に対して0.8 nM。EGFR側はリガンド結合と下流の増殖シグナルを阻害する一方、LGR5側はN-cap/LRR1領域に結合するもののRSPO-1の結合は阻害せず、LGR5陽性細胞の捕捉と内在化に関与する。Genmabは、EGFRとLGR5の共発現細胞におけるLGR5の内在化を介したEGFR分解に加え、Fc領域を介したADCCおよびADCPを作用機序として挙げている。本剤は、一次治療の併用療法と既治療のr/m HNSCCに対する単剤療法について、FDAから画期的治療薬指定(BTD)を受けている。
開発元のMerusは、Genmabが2025年9月29日に買収合意を発表し、同年12月に買収を完了した企業である。買収額は約80億米ドル、全額現金による1株当たり97米ドルの取引だった。Merusは買収前から頭頸部がんの第III相試験を進めていた。
意味するもの
試験間の単純比較には限界があるものの、化学療法を含まない併用療法が無作為化第III相でpembrolizumab単剤に対しOSの改善を示した点は、一次治療の選択肢の構図に関わる結果である。化学療法を含まないことは治療負担の軽減につながる可能性があるが、骨髄抑制や粘膜障害を回避できると断定はできず、高齢者や併存疾患を有する患者での有用性は今後の詳細な安全性データに基づく評価が必要となる。今回のトップライン発表ではPFSや詳細な安全性データは示されておらず、結果の解釈には全データの確認が要る。OSとORRの両主要評価項目の達成は承認申請を支持する知見だが、承認経路や可否は規制当局の審査による。同社は全結果を今後の学会で発表し、各国規制当局と協議する予定としている。
開発は既治療例と他がん種にも広がる。第III相LiGeR-HN2(NCT06496178)は、抗PD-1抗体と白金系化学療法の治療中または治療後に進行したr/m HNSCC約500例を対象に、本剤1,500 mgの2週ごと単剤投与と、担当医選択の単剤(cetuximab、methotrexate、docetaxel)を比較する。主要評価項目は盲検独立中央判定によるORRとOSで、2024年7月に登録を開始し、約175施設が参加している。大腸がんでも、ESMO 2026でRAS/BRAF野生型・抗EGFR抗体未治療のmCRCを対象とした化学療法併用第II相のORRが一次治療75%、二次治療67%と報告され、第III相のLiGeR-CRC1、LiGeR-CRC2が開始されている。
今回の第III相の結果と第II相の成績は、約80億米ドルを投じた買収の中核資産の臨床的価値を支持する材料となる。ただし買収の事業上の成果は、今後の承認取得、適応拡大、競争環境および販売実績を踏まえて評価する必要がある。