Ipsosのヘルスケア部門(Healthcare at Ipsos)は、ブロックバスター(大型製品)の独占期間満了後も成長を続けられるかどうかは、外部からのイノベーション調達だけでは決まらず、「旗艦フランチャイズの運用」「社内R&D」「外部イノベーション」の3つを balance できるかにかかっている、とするレポート「THE REPLACEMENT ARCHITECTURE(置き換えの設計)」をまとめた。執筆はJoel Sandler, PhD。

3本脚の椅子という枠組み

レポートはまず、ブロックバスターが「成果であると同時に将来の負債でもある」と指摘する。患者と株主に並外れた価値を生んだ製品が、独占期間の満了とともに経営陣にとっての置き換え課題に変わる。フランチャイズが大きいほど、後に残る空白も大きい。つまり、あらゆるブロックバスターは自らの戦略的問題の種を内包している、という整理だ。

その空白を埋める設計(リプレースメント・アーキテクチャ)は、3つの補完的なレバーで構成されるとする。図1では「3本脚の椅子」として示されている。

  • 旗艦フランチャイズの運用(PROTECT):主な役割は今日のフランチャイズの価値最大化。強みは予測可能なキャッシュフローと近い将来の価値。弱点はLOE(独占期間満了)時に空白が迫ること。
  • 社内イノベーション(CREATE):有機的な次の成長エンジン。長期的な価値創出は最も大きいが、時間が長くかかり脱落率も高い。
  • 外部イノベーション(ACQUIRE):戦略を加速させるレバー。最も速く、参入点をコントロールできる一方、コストがかかり統合の成否に依存する。

レポートはこの3つを互いに排他的な投資カテゴリーではなく、戦略的な選択の違いとして区別している。旗艦品が生む資金がイノベーションを支え、外部から取得した資産も上市の前後で何年もの社内開発を必要とし、社内R&Dは既存フランチャイズのライフサイクル管理を支える、という相互依存がある。

4社の「ディールメイキングの指紋」

3本のうち外部イノベーションは、比較的短い時間軸で将来の成長プロファイルを描き直せる、最も直接的で目に見えやすいレバーである。だからこそ、特許の崖をめぐる議論ではBD(事業開発)と外部調達の話が焦点になりやすい、とレポートは述べる。

分析では、置き換え戦略とフランチャイズ成熟度の幅を代表する4つの旗艦品が選ばれた。チルゼパチド(Mounjaro、Zepbound/Eli Lilly and Company)、アダリムマブ(Humira/AbbVie、原開発はAbbott Laboratories)、ペムブロリズマブ(Keytruda/Merck & Co., Inc.、米国・カナダ以外ではMSD)、レナリドミド(Revlimid/BMS)。各フランチャイズを上市と想定されるLOEに紐づけ、M&Aやライセンスなどの主要提携を、取引タイプ、開示されたアップフロント額、主要資産の開発段階で特徴づけて時系列上にマッピングした。これを同社は「ディールメイキングの指紋」と呼ぶ。

観察されたのは、第一に4社とも活発なディールメイカーであったこと、第二に取引件数や規模だけでは各社のアプローチをほとんど区別できないことだ。違いが出るのは、いつ取引したか、どんな種類の投資をしたか、そしてそれがフランチャイズのライフサイクル上どう分布しているか、である。

表1では4つの原型が示された。Lillyは様式や疾患領域をまたいで早期から分散投資し複数の成長オプションを作る「ポートフォリオ・ビルダー」、AbbVieは社内イノベーション、ライセンス、フランチャイズ拡張、選択的買収を組み合わせる「ハイブリッド・ビルダー」、Merck/MSDは旗艦品を優先しつつ外部をLOE接近とともに加速的に取り込む「フランチャイズ・ディフェンダー」、BMS/Celgeneは早期段階・高リスクの投資を多数行う「ベンチャー・ビルダー」とされた。

ただし指紋は設計全体の一要素にすぎない。Lillyの早期の外部活動はretatrutideやorforglipronを含む社内パイプラインを補完し、AbbVieが外部調達したSkyriziは自社開発のRinvoqと補完関係にあった。対してBMS/Celgeneは、積極的な外部投資もPomalystのような社内努力も、Revlimid後の将来への十分な確信を生むには至らなかった反例になりうる、とする。

株価は個別案件ではなく設計を見る

もう一つの軸は投資家の反応だ。各社の株価を旗艦品上市時点を100として指数化し、相対的なライフサイクル位置(1=上市、100=LOE)に対してプロットすることで、暦年の異なる企業を同じ成熟段階で比較できるようにした。Celgeneについてはポジション約84にあたるBMSによる買収(2019年11月)まで、LillyとMerck/MSDは2026年5月までを表示している。出所はHealthcare at IpsosおよびYahoo Finance。

レポートは、株価は投資家心理のリアルタイムな体温計であると同時に戦略資産でもある、と位置づける。プレミアムで取引される企業は、資金調達、臨床開発の原資、買収や提携の実行で柔軟性が高まり、投資家の信認が実行力を強化するフィードバックループが生まれるためだ。分析から導かれた示唆は、投資家の反応が個々の取引だけでなく、その企業の長期的な置き換え設計への信頼を映しているように見える、というものである。

業界にとっての意味

この枠組みが示すのは、特許の崖への対応をBDの件数や金額で測る見方の限界だ。外部イノベーションは将来の成長ストーリーを強める一方、その効果は社内能力や既存フランチャイズをどう補完するかに左右される。評価の対象は「いくら払ったか」ではなく、タイミング・分布・構成という設計の形になる。

Ipsosは、リプレースメント・アーキテクチャを成長への備え、ポートフォリオ戦略、提携機会を評価するための実務的なフレームワークとして位置づけている。導出に用いられたのは代表的な4社の事例であり、archetypeのいずれかが本質的に優れているかは未解決の問いとして残されている。それでも、自社をどの原型に近いと捉え、3本脚のどこが細いのかを言語化することは、提携先を探す側にも探される側にも共通の物差しを与えるはずだ。