何が発表されたか

ノボノルディスクは2026年11月6日、米ニュージャージー州プレインズボロとデンマーク・バウスバードから、代謝異常関連脂肪肝炎(MASH)の成人を対象としたセマグルチド2.4mg週1回注射に関する新たな実臨床データを発表した。データは米コロラド州デンバーで開催された米国肝臓学会(AASLD)The Liver Meeting® 2026 で発表されたもので、いずれも後ろ向き観察研究である「PLATINUM-Truveta」と「RHODIUM-2」の2件。セマグルチド2.4mgを開始した患者と、開始しなかった患者(またはレスメチロムを開始した患者)との間で、肝酵素と心代謝マーカーの変化を比較している。

PLATINUM-Truvetaは、セマグルチド2.4mgを開始したMASH成人2,873例と、レスメチロムを開始した2,285例を比較した。6カ月時点の調整後平均変化量は、ASTがセマグルチド-10.4 U/L、レスメチロム-4.5 U/L(群間P<0.001)、HbA1cが-0.38ポイント対-0.08ポイント(P<0.001)、体重が-18.9 lb対-5.6 lb(P<0.001)。プレスリリースでは、6カ月時点の体重減少を18.9 lb(8.6 kg、約8%)と記載している。血小板は+7.8対-4.4(P=0.022)だった。一方、ALTは-14.8対-11.6でP=0.20、中性脂肪は-29.4対-30.5でP=0.91と有意差はなく、LDLは-13.7対-29.1(P<0.001)とレスメチロム側の低下が大きかった。3カ月時点でも、AST(-6.7対-1.9、P<0.001)、HbA1c(-0.29対+0.03、P<0.001)、体重(-10.5対-1.5、P<0.001)で差がみられている。

RHODIUM-2は、セマグルチド2.4mgを開始した2,479例と、セマグルチドを開始しなかった70,702例を比較した。12カ月時点の調整後平均変化量は、ALTが-14.0 U/L対-3.8 U/L(群間差-10.5、P<0.01)、ASTが-9.1対-1.8(同-7.3、P=0.001)、体重が-30.7 lb対-2.4 lb(同-28.4、P<0.001)。HbA1cは-0.46ポイント対-0.09ポイントだった(群間差・P値は未報告)。探索的評価項目であるALT高値サブグループ(女性ALT>25、男性ALT>35)では、ALTが-24.3対-10.7(P=0.002)、ASTが-14.2対-5.3(P=0.002)となった。

試験の枠組みと限界

両研究とも、米国の30(RHODIUM-2は30以上)の医療システムから集めたTruvetaの匿名化電子カルテデータを用い、2021年6月から2026年3月までを対象期間とした。肝硬変やその他の慢性肝疾患の患者は除外され、各時点で治療継続が条件とされた。交絡を抑えるため、逆確率治療重み付けと一般化推定方程式が適用されている。

ノボ自身が注記しているとおり、両研究は後ろ向き・観察研究であり、治療の割り付けは無作為化されていない。ベースライン特性は群間で異なり、結果はフォローアップ測定値が得られ、治療継続基準を満たした患者に基づく。関連性は示せても因果関係は確定できず、測定されていない交絡、両治療の承認が比較的最近であることによる追跡期間の制約、電子カルテのコーディングの不正確さといった限界があるとしている。

セマグルチド2.4mgは、中等度から進行した肝線維化を伴う(肝硬変は除く)成人MASHに対し、低カロリー食と運動量の増加と併用する治療としてFDAの迅速承認を受けている。迅速承認はMASHと肝線維化の改善に基づくもので、適応の継続承認は確認試験での臨床的ベネフィットの検証・記述が条件となる場合がある。同社は第3相ESSENCE試験を継続中。なお本剤には甲状腺腫瘍(がんを含む)の可能性に関する枠組み警告があり、髄様甲状腺がん(MTC)や多発性内分泌腫瘍症2型(MEN 2)の既往・家族歴がある人には使用しない。

業界にとっての意味

MASH領域では、迅速承認を受けた薬剤が実臨床でどう使われ、どのような変化と結びつくのかという情報がまだ乏しい。今回の2件は、無作為化比較試験ではないという明確な限界を抱えつつ、既存の電子カルテ基盤を使って承認後の比較データを示した点に特徴がある。特にPLATINUM-Truvetaは、セマグルチド2.4mgとレスメチロムという2つの選択肢を直接並べ、AST・HbA1c・体重では前者、LDLでは後者という、項目ごとに異なる傾向を提示した。

MASHは患者の40%超が2型糖尿病を、8割超が肥満を併存するとされ、約9割が未診断ともされる疾患である。メディカルアフェアーズ担当バイスプレジデントのMichelle Skinner Moore氏は、こうした知見が医療者の判断材料になると述べ、Texas Liver InstituteのEric Lawitz氏も「MASH患者それぞれで代謝上のニーズは異なる」とコメントしている。単一の評価指標ではなく、肝酵素と心代謝指標を併せて見る実臨床データの提示は、併存疾患の多いこの領域で治療選択の議論の形を変えていく可能性がある。