2026年2月、中外製薬のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬「エレビジス」が、1患者あたり3億497万円という国内最高額の薬価で保険収載された。
発売から約4か月経ち中外製薬は6月17日にメディア向け説明会を開催し、国内で約10人に投与されたことを明らかにした。一方、投与施設の医師は投与すると医療機関は赤字になるとも語っており、遺伝子治療薬のマネジメントの難しさが如実に表れている。

エレビジスは、DMDに対する国内初の遺伝子治療薬(再生医療等製品)であり、投与は生涯に一度の単回点滴でとなる。対象は抗AAVrh74抗体が陰性・歩行可能・3歳以上8歳未満のDMD患者に限られる。
開発元は米サレプタで、中外は親会社ロシュ経由でライセンスを導入した。米国は2023年6月に承認、日本は国際共同第Ⅲ相試験に参画し、2025年5月に条件・期限付きで承認された。ただし翌6月の海外死亡例を受けて安全対策を強化したため、発売は約9か月後の2026年2月20日となっている。

国際共同第Ⅲ相EMBARKの主要評価項目は、運動機能を測るNSAA総スコアの52週後の変化であったが、エレビジス群2.57、プラセボ群1.92で、p=0.2441となり統計学的な有意差は認められなかった。
一方、副次評価項目では改善が見られた。床からの立ち上がり時間は群間差−0.64秒(p=0.0025、名目上のp値)と改善し、10メートル歩行などでも一貫した傾向が示された。この結果を受けてEMA(欧州医薬品庁)は承認を見送り、日本は歩行可能例に限定して条件付きで承認した。
3億円の薬価は原価計算方式で算定されている。製品総原価は2億5523万円で、希少疾病用再生医療等製品として市場性加算I(10%)の対象となったが原価の開示度が低いが故に加算係数はゼロとなり、実質的な価格の上乗せは行われなかった。従来の国内最高額だった脊髄性筋萎縮症治療薬ゾルゲンスマ(1億6707万円)を上回ったが、米国薬価384万ドル(約5.7億円)の約半額となっている。
原価そのものが高いのはAAVベクターの製造には専用設備への巨額投資が要るからとみられる。一方、年間の投与はピークでも37人と見込まれるため、単価はどうしても高くなる。
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米国では、承認対象外の非歩行患者2例(15歳・16歳)が投与後90日以内に急性肝不全で死亡したため、FDAは警告を付し適応を歩行可能例に限定している。これを受けて日本は日本小児神経学会が主導して適正使用指針・投与施設の認定・全例レジストリ・カルタヘナ法対応などを整備した。
なかでも、小児神経・小児肝臓・循環器・免疫・腎臓・血液など多科の専門医で構成するエキスパートパネル「BRIDGE-NMD」をMedii社と行っており、同社のプラットフォーム上で投与患者を全例登録し、急性肝不全・血栓性微小血管症・免疫介在性筋炎といった重篤で稀少な副作用に24時間体制で助言する仕組みを整えている。加えて厚労省は課長通知で患者選択の厳格化とモニタリング強化を求め、投与後3か月までは毎週の肝機能検査が要る。

このような体制を整備して対応するため、説明会では投与施設である国立精神・神経医療研究センターが、安全対策の体制は産官学で順調に機能していると認めつつ、全例登録や個別の相談対応に「見えない人件費」がかかりカルタヘナ法に基づく廃棄に用いるPPE(個人防護具)などの消耗品・人件費もかさむと指摘している。「かなり多くの人的リソースを割いている。病院は少なくとも黒字にはなっていない」「投与すると医療機関は赤字になる」と述べており、2026年度の診療報酬改定でカルタヘナ法対応の加算が新設されたものの「正直なところ十分な額ではない」とし、持続可能性の担保を課題に挙げている。