厚労省の令和9年度予算概算要求の中には医薬品等の審査・安全対策におけるAI導入推進事業というものがあり、30億円が計上されている。その取り組みとしてリアルタイム臨床試験の試行(医療機関・PMDA間の情報共有システム構築含む)が記載されており、これはFDAを参考にするものとなっている。

https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/27syokan/dl/gaiyo-05.pdf

現在の治験では、実施医療機関で収集された治験データはまず製薬企業に報告され、企業が解析してデータを集計・文書作成して規制当局へ提出する。そのため、このデータ集計や文書作成に多くの時間を要するため、開発の長期化につながる課題がある。

従来の治験:一括申請(バッチ処理)と各フェーズ間の空白期間(筆者作成)
従来の治験:一括申請(バッチ処理)と各フェーズ間の空白期間(筆者作成)

リアルタイム臨床試験(RTCT)は治験の進行中に安全性シグナルや主要評価項目の達成状況などを規制当局がクラウド上でリアルタイムに確認できる仕組みになっている。
これにより、PMDAにおける審査・安全対策業務や事務業務のAI利活用を進め、AI前提の薬事審査等の体制を確立することが可能になるとされている。

従来のフェーズ型と連続的治験(Continuous Trials)の比較(筆者作成)
従来のフェーズ型と連続的治験(Continuous Trials)の比較(筆者作成)

この動きはすでにFDAで進んでおり、2026年4月にはFDAからRTCTに関して、エンドポイントとデータシグナルをリアルタイムでFDAに報告する2つのPoC (Proof of Concept)試験が開始されたことが発表されている。
PoC試験は2つあり、1つはAstraZeneca は未治療のマントル細胞リンパ腫を対象とする第2相多施設試験TRAVERSEをテキサス大学MDアンダーソンがんセンターとペンシルベニア大学の参加を得て実施している。もう1つはAmgenのは限局型小細胞肺がんを対象とする第1b相試験STREAM-SCLCを実施中で、最終的な施設選定を進めている。

それぞれの試験について、FDAは企業とリアルタイムでシグナルを報告する基準の設定について協議しており、AstraZenecaの試験についてはParadigm Health を通じてシグナルを受領し検証済みとなっている。

FDAのリアルタイム臨床試験PoC:アストラゼネカとアムジェンの取り組み(FDA発表をもとに筆者作成)
FDAのリアルタイム臨床試験PoC:アストラゼネカとアムジェンの取り組み(FDA発表をもとに筆者作成)

FDAのコメントでは“60年間、我々は同じやり方で臨床試験を行ってきた。重要なデータシグナルがFDAに届くまでに何年もかかることがある。この遅れは規制上の判断を不必要に遅らせ、医薬品開発のタイムラインを鈍らせる”“我々は、試験の進行中にFDAの科学者が安全性シグナルとエンドポイントをリアルタイムで見ることができる、現代的なアプローチを大胆に進めている。これは有望な治療を加速させ、医薬品開発のすべての相にわたってリアルタイムの連続的な試験を実施するという最終目標に向けて進むことを助ける”と述べられている。

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-announces-major-steps-implement-real-time-clinical-trials

FDAがRTCTの先に置いているのは、continuous trials(連続的治験)で、FDA発表の中では、”リアルタイム臨床試験は連続的な治験を促進するという当局の目標に向けた重要な一歩である。現在、ほとんどの臨床開発は個別のPhaseに分かれて行われている。臨床開発の各Phaseはプロトコルに従って運営され、通常は別々の試験として実施されるため、一般に、あるPhaseが終わって次が始まるまでに開発プログラムに中断期間が生じる。これが製品開発のペースを遅らせている。リアルタイム治験によりFDAが重要な知見をリアルタイムで見られるようになれば、この中断は解消または最小化でき、連続的な治験が可能になる“とされている。つまり、今現在個別にPhase1-3で行われている承認に向けた臨床試験が連続的に行うことができることが期待されている。
2026年9月にはFDAはExpedited IND Pilotの申請受付を開始しており、これは初回ヒト試験のIND審査を、正式提出前にローリングで行う仕組みとなっている。この発表文では、現在米国では初回ヒト臨床試験の完了までに最大2年かかるが、同じ種類の試験が中国とオーストラリアでははるかに速く完了しており、科学的イノベーションにおける米国のリーダーシップを脅かしているとしており、治験の国際的な競争力を高めるものとして位置付けられている。

従来型と次世代型(FDA/PMDA)アプローチの比較(筆者作成)
従来型と次世代型(FDA/PMDA)アプローチの比較(筆者作成)

厚生労働省はドラッグラグ・ロスの解決の一環としての治験環境の向上や治験数の増加も目指しており、今回のリアルタイム臨床試験の実用化が期待される。