2026年7月16日、FDAはメルクの新しいコレステロール低下薬リプフェンドラ(一般名エンリシチド)を承認した。世界初の経口PCSK9阻害薬となる。第3相試験では注射剤に匹敵する効果、優れた安全性が示されている。

この薬剤は優先審査バウチャー制度 (薬価引下げなどへの協力と引き換えに審査を劇的に速める制度) により通常より早い審査で承認を得ている。

LDLコレステロールを協力に下げるとされるPCSK9阻害薬は注射薬として2015年にAmgenのレパーサ(日本ではアステラスが販売)とプラルエント(日本ではサノフィが販売していたが販売中止)が相次いで承認されていた。これらの注射薬の当初の年間価格は14,000ドル前後であり、この高価格が保険会社の強い抵抗を招いたとされる。その後2018〜19年にリストプライスを最大60%引き下げている。
今回のメルクのリプフェンドラは30日分のリストプライスが315ドルで、年換算するとおよそ3,780ドルのため注射薬よりもかなり安くなっている。これは意味のある値引き(meaningful discount)だとRBCキャピタル・マーケッツのアナリスト からは評価されている。また、同社の担当者は“保険の有無に関わらず幅広いアクセスを可能にするはずだ”とコメントしている。

この承認審査が注目されているのは通常より大幅に速いペースで進んだからで、その背景にあるのが、当時のFDA長官マーティ・マカリー氏が2025年6月に導入した優先審査バウチャー制度(CNPV、Commissioner's National Priority Voucher)となっている。この制度は、国益(national interests)に資すると認められた医薬品について、通常10〜12カ月かかる審査を最短で1〜2カ月にまで劇的に短縮するとしている。対象となる基準には、リーズナブルな価格の実現、製造拠点の米国回帰、アンメットニーズへの対応に加え、最恵国待遇(MFN)価格の採用が明記されている。

2025年12月時点で、FDAは計15社にバウチャーを付与しており、そのうち4社はMFN価格への合意と、米国での製造への大規模投資を合意している。一方でこの制度は当初から物議を醸しており、医療専門メディアSTATはホワイトハウスがCNPVの最終判断に関与している(政治的介入がある)と報じている。

国益という基準がどの薬に適用されるかを、政府が事実上決めているのではないかという懸念があり、批判が相次いでいる。マカリー氏は2026年5月に辞任しており、制度の将来がどうなるかは不透明となっている。
とはいえリプフェンドラは、メルクにとってキイトルーダ特許切れ後の主軸候補の1つであり、AstraZenecaとの開発競争の真っ只中であった。そのため、今回のプログラムで早期承認された意義は大きい。