2026年8月12日、米国の非営利組織ICER(Institute for Clinical and Economic Review)が、アストラゼネカの新規高血圧治療薬Baxfendy について、価格に見合う効果を示せていないとする評価報告書を公表した。同薬は今年5月にFDAから承認されたアルドステロン合成酵素阻害薬という新しい作用機序の高血圧治療薬で、20年以上ぶりの新規治療としてピーク50億ドル規模の売上が見込まれている。
なお、これは8か月に及ぶ評価プロセスの中間地点で公表されたドラフトであり、最終結論ではない。現在パブリックコメントを受け付けている。
https://icer.org/wp-content/uploads/2026/08/ICER_Hypertension_Draft-Report_For-Publication_081226.pdf
https://www.fiercepharma.com/pharma/azs-baxfendy-not-worth-its-price-tag-icer-says
https://pharmaphorum.com/news/icer-says-azs-new-hypertension-drug-too-expensive
[ICERとは]
ICER (Institute for Clinical and Economic Review)は医薬品などの治療介入について、エビデンスに基づいた評価を行う独立した非営利の研究機関で、介入のベネフィットとリスクに関するエビデンスを分析してその価値を測定し公正な価格(fair prices)を提案することを目的としている。評価の独立性を保つため、製薬企業等からの直接的な資金提供を受けずにレビューを行っている。

[評価の手法]
- ネットワークメタアナリシス(NMA):文献検索に基づき、直接比較試験の不足を補うために、Baxdrostat、Lorundrostat、既存薬(Spironolactone、Eplerenone、Amiloride等)およびプラセボを比較するNMAを実施。
- 長期費用対効果(Long-Term Cost-Effectiveness)モデリング: NMAから得られた収縮期血圧(SBP)の低下効果を、48試験・34万例以上を対象としたメタアナリシスデータを用いて、心筋梗塞、脳卒中、虚血性心疾患、心不全、末期腎不全といった臨床イベントの発生リスク減少へと変換。これにより、生涯獲得QALY、獲得evLY、総コストへの影響を算出。
- 潜在的な予算影響(Potential Budget Impact)分析: 新薬を導入した場合の5年間の財務影響をICERが定める潜在的予算影響の年間閾値である8億2100万ドルを前提に評価。この上限に達するまでに、治療抵抗性高血圧の適格患者の何%を治療できるかを推計。

[評価結果]
①臨床的有効性:血圧低下効果の比較(NMA結果)
プラセボに対する下記薬剤の収縮期血圧(SBP)の平均低下量(mm Hg)は以下の通り。
· Baxdrostat:11.0 mm Hg(95%確信区間 [CrI]: 7.3, 14.6)
· Spironolactone:10.1 mm Hg(95%確信区間 [CrI]: 6.7, 13.1)
· Lorundrostat:9.0 mm Hg(95%確信区間 [CrI]: 1.7, 16.4)
· Eplerenone:8.8 mm Hg(95%確信区間 [CrI]: 2.3, 15.5)
· Amiloride:6.6 mm Hg(95%確信区間 [CrI]: 1.4, 11.6)
NMAの結果、Baxdrostat、Lorundrostatはいずれも有意な血圧低下作用を示したが、その効果は既存の安価なジェネリック競合薬(Spironolactone、Eplerenoneなど)と比較して確信区間が大きく重なっており、統計的な優越性を結論づける直接比較データはない。

② 長期費用対効果:薬価の大きな不均衡
本報告書では、新薬の年間仮定価格(プレースホルダー薬価:年間10,950ドル、1日あたり30ドル相当)を用いて評価を実施。
・薬剤費が非常に高いため、既存の安価なジェネリック薬(年間約200ドル〜2,000ドル程度)を対照とすると、新薬は総コストを著しく引き上げる結果。
・臨床試験で示された短期時点(通常12週間)での血圧低下効果の差は、生涯モデルにおいてリアルワールドにおける服薬中止率を考慮してシミュレーションすると、生涯の心血管・腎イベントの削減件数の明確な差としては現れにくく、結果としてQALYやevLYの獲得差は非常に限定的となる。
・その結果、新薬の増分費用効果比(ICER値)は社会的観点でSpironolactoneに対し、Baxdrostatが約76.7万ドル/evLY獲得、Amilorideに対し約78.7万ドル/evLY獲得、LorundrostatがSpironolactoneに対し約131.3万ドル/evLY獲得など、一般に受け入れられる妥当な閾値範囲を大きく超える。

③ 費用対効果を達成するための閾値価格(Threshold Prices)
既存のSpironolactoneを対照とする場合、新薬が費用効果的であると判断されるための、目標増分費用効果比(evLY獲得あたり)に応じた年間純価格(閾値価格)は以下のように算出された。
· 増分費用効果比 50,000ドル/evLY獲得 を達成するための年間純価格:
o Lorundrostat:約630ドル(仮定価格10,950ドルから約94%の大幅な値引きが必要)
o Baxdrostat:約1,000ドル(仮定価格10,950ドルから約90%の大幅な値引きが必要)
· 増分費用効果比 150,000ドル/evLY獲得 を達成するための年間純価格:
o Lorundrostat:約1,400ドル
o Baxdrostat:約2,400ドル
この結果は、仮定価格のままで市場導入された場合、安価なジェネリックなどの競合品に囲まれた本領域において、新薬が費用対効果を提供しているとはみなされないことを強く示唆する。予算影響分析では、この価格では予算影響上限の8億2100万ドルに達するまでに、治療可能となる適格患者の比率はほんのわずか(数%)に限定と指摘している。

[アストラゼネカ側の主張]
アストラゼネカの広報担当者は、米国では数百万人が複数の薬を服用しているにもかかわらず血圧をコントロールできていないと指摘したうえで、”Baxfendy を含むアルドステロン合成酵素阻害薬は、高血圧管理における20年以上ぶりの初めてのイノベーションだ。Baxfendy は、確固たる科学的エビデンスに支えられた、臨床的に意味のある血圧低下を患者にもたらす”としている。
承認根拠のBaxHTN試験では、2種類以上の降圧薬を服用中の患者において、12週時点で2mg用量が約10 mmHgの収縮期血圧低下を示し、結果はNEJMに掲載されている。さらに治療抵抗性高血圧の患者218例を対象にした試験でも12週時点で24時間平均収縮期血圧が14.0 mmHg低下し、130 mmHg未満を達成した患者は71%に上っている。この試験はLancetに掲載されている。
https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2026/Baxdrostat-MNR-2026.html
https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2025/bax24-phase-iii-trial-full-results.html
アメリカは民間保険の医療システムのため、今回のBaxfendy の判定は償還というよりもPayerの処方制限や割引要求の根拠とする可能性がある。