2026年8月17日、米国のホワイトハウスが「トランプ大統領が直近60年で最大の処方薬価格の引き下げを達成した (President Trump Delivers Largest Prescription Drug Price Drop in Over 60 Years)」と題する発表を行った。最恵国待遇(MFN)価格政策により、処方薬価格がトランプ大統領就任以降に累積3.9%下落し、過去1年間(対前年比)では3.1%下落という1963年以来最大の年間下落幅を記録したとされる。

ホワイトハウスの発表内容

発表によれば、MFN政策のもとで世界の大手製薬企業17社(ブランド医薬品市場の約86%)が米国の価格を他の先進国が支払う最低水準に合わせることに合意している。処方薬価格は大統領就任以降3.9%下落し、2026年に入ってからは毎月下落を続けている。

直販サイトTrumpRxは既に数百万人の患者に7億ドルの節約をもたらしたとされ、かつて月額1,000ドルを超えていたGLP-1受容体作動薬が149ドルから購入できるようになり、不妊治療薬、吸入薬、インスリン、コレステロール治療薬なども50〜90%以上の値下げを実現したと説明している。

📊 処方薬価格指数の前年比推移(1990年1月〜2026年7月)のグラフは、Axiosの記事を参照。

専門家の評価は割れている

この下落をMFN政策の成果とするかどうかは専門家でも意見が分かれている。

AP記事では、Vanderbilt UniversityのStacie Dusetzina氏はこれらの政策は策定途上にあり、指数に含まれる支払者には影響していない(These policies are under development and have not affected payers in the index)と述べている。MFNでは製薬企業との契約内容が公表されていないこと、そして連邦医療プログラムでMFNを実施するためのモデルがまだ発効していないことから、合意は結ばれたが、実際の支払いにはまだ反映されていないという指摘となっている。

University of Southern California (USC)の医療経済学者Jeffrey Joyceはより直接的で、政策の功績を認めるなら、インフレ抑制法(IRA)と言わざるを得ない(If you were going to give policy credit, you'd have to say the IRA)としている。IRAは前政権下の2022年に成立した法律で、メディケアに医薬品価格の直接交渉権限を与えた。最初の10品目の交渉価格は2026年1月に発効しており、メディケアで60億ドル、患者の自己負担で15億ドルの削減が見込まれている。Joyce氏はTrumpRxについても「割引を見つけやすくしているが、多くは既に存在する価格を示しているだけ(TrumpRx makes discounts easier to find but often points consumers to prices that already exist)」と評している。

そのほかに引き下げ要因として挙げられているのは、特許切れに伴うジェネリック参入、バイオシミラーの拡大、GLP-1をめぐる現金払い価格の競争、そして薬剤構成の変化である。

ホワイトハウスの主張と、専門家の分析・実態の比較
ホワイトハウスの主張と専門家の指摘を、論点ごとに整理した(筆者作成)

一方でパラゴン研究所は下落のタイミングと持続性からすると、この傾向の多くをIRAに帰するのは難しい(However, the timing and persistence of the decline make it difficult to attribute much of the trend to the IRA)としており、最初の交渉価格は1月という一時点で、10品目のみに適用されたにすぎず、その月に有意な価格低下は見られなかったと主張している。同研究所は歴史的な下落の正確な原因を解きほぐすには時間がかかる(The precise causes of the historic decline in prescription drug prices will take time to disentangle)と述べている。

なお、パラゴンの記事では、処方薬の価格が下がる一方で病院の受診費用は上がる一方であることも指摘されている。

📊 処方薬価格と病院価格の推移を比較したグラフは、Paragon Health Instituteのレポートを参照。

財政影響の試算

今回のホワイトハウスの発表では、同時に財政影響の試算が公表されている。試算によれば、今後10年間に米国で上市される新薬(Prospective MFN)について、MFN政策と通商外交の組み合わせにより米国のネット価格が30%低下すると仮定した場合、総額5,290億ドルの削減効果が見込まれる。既存薬(メディケイドMFN)については、10年間で643億ドルとされる。後者は10年間で180億ドルの支出削減が見込まれるものの、薬価低下による利用増で10年間で36億ドル(20%)が相殺され、10年間の純削減は144億ドル(年平均14.4億ドル)となる。連邦政府が57%(10年間で82億ドル)、州政府が43%(10年間で62億ドル)を節約する構成となる。

参照国と「2番目に低い価格」

MFNで参照される国は、日本を含むG7諸国にデンマークとスイスを加えた範囲で、各国のネット価格が対象となる。興味深いのは、連動のターゲットが最安値ではなく「2番目に低い価格」に設定されている点。

米政権は2026年4月の米英協定を成功事例として挙げており、英国政府が製薬会社から徴収するクローバック率を引き下げ、新薬の経済評価における費用対効果の閾値を引き上げることに合意した協定で、これにより製薬会社が英国市場から得る実質収益が増えたとされる。政権はこのモデルを他の欧州諸国や先進国にも広げる方針だという。