2026年9月19日に米国の消費者団体Public Citizenが、ファイザーおよびイーライリリーと米保健福祉省(HHS)の間で結ばれた MFN薬価合意の契約書を公開しており興味深い。情報公開法に基づく請求と訴訟を経てHHSから開示されたもので、開示されているのは27件のうち2件のみ、かつ約120ページの大部分が黒塗りされてはいるが、把握できる点について記載する。

Public Citizenは米国の非営利団体で医療分野の方針は、国民皆保険(Medicare for All)の実現であり、製薬業界の価格設定に一貫して批判的な立場をとっている。今回の発表のページでも“Taking on Trump(トランプに立ち向かう)”というキャッチコピーが出されており、現政権に対しても対立的な姿勢を示している。そのため、下記記載では公開された文書(HHS作成の一次資料)からわかる点について扱う。

1. ファイザーは海外の増収分をHHSと分配する

ファイザーの最終契約第5条の見出しは”増加した収益[黒塗り]を米国の患者と納税者に還元する”となっている。原文は下記の通り。

5.1. 2026年1月1日以降、各対象製品について、ファイザーは、対象製品の米国外版の純価格の上昇により対象製品の米国外版の販売から実現する純増収の[黒塗り]部分をHHSと分配することに合意する。[黒塗り] 以下に定義するとおり、かつ米国の法令、規則および政策が許容する範囲で[黒塗り]
分配の割合、対象となる製品、純増収と基準純収益の定義などいずれも黒塗りだが、ファイザーが米国外で純価格を上げて増収を得た場合、その一部をHHSが受け取るという仕組みであることはわかる。
報告義務もあり、2027年3月1日から毎年、前年について米国外版の純収益、基準純収益との比較、純増収の計算を記した報告書をHHSに提出することとなる。
契約の対象期間は、第1.5条で本契約の発効日から2029年1月20日までと定められており、2029年1月20日はトランプ大統領の任期満了日となっている。
リリーの最終契約にも、第4条として“指定国における増加した収益を米国の患者と納税者に還元する”という同名の節があるが、見出し以外すべて黒塗りとなっている。

ファイザー契約第5.1条:米国外の増収分をHHSと分配する仕組み(筆者作成)
ファイザー契約第5.1条:米国外の増収分をHHSと分配する仕組み(筆者作成)

2. リリーは他国での供給を止めれば、その国の薬価をMFN対象外とできる

リリーの契約ではより他国に影響を与えうる記載がある。
まずMFNのルールとして、下記の通り指定国が決まっている。
“「指定国」とは、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スイスおよび英国をいう。”
そして第1.17条は、MFN価格を”指定国バスケットのGDP調整後ネット価格のうち、2番目に低いGDP調整後ネット価格”と定義する。最低価格ではなく2番目、かつリスト価格ではなくネット価格である点で、メディケアのGLOBE・GUARDモデルとは異なる。
そのうえで第8.2条が下記のようになっている。
“8.2. 製造業者が、対象製品、新規上市製品またはGLP製品の米国外版について、全剤形および全規格の指定国への供給を停止する意向を有する場合、製造業者はHHSに速やかに通知しなければならない。HHSはその後、対象製品または新規上市製品の供給が停止された指定国を、当該製品のMFN価格の計算のための指定国バスケットから除外するものとする。”
つまり、リリーがある参照国への供給を止めてHHSに通知すれば、HHSはその国をその製品の価格計算から除外すると定めている。よって、リリーとしては、MFNに参照させることを避けるためにこれらの指定国(日本を含む)で製品を上市しないという可能性がより現実味を帯びている。

3. リリーの契約ではGLP-1は対象製品に含まれない

リリーの契約第1.7条は、「対象製品」の定義の末尾で次のように定める。
“前記にかかわらず、対象製品にはGLP製品を含まない。ただし、トルリシティ(デュラグルチド)は対象製品である。”
つまり、チルゼパチド (ゼップバウンドとマンジャロ)は、MFN価格の適用を受ける対象製品から外れている。これらのGLP-1製品は、契約の別表Bで別の枠組みに置かれ、社会保障法402条に基づく実証事業、およびメディケイドとメディケアパートDにおけるBALANCEモデルで、月245ドルのGLP割引価格が別途設定されている。

なお、FiercePharmaがHHS報道官にコメントを求めたところ、報道官はPublic Citizenは何も新しいことを明かしておらず、情報はホワイトハウスがすべてのMFN合意について出したファクトシートに既にあったと述べている。
確かに海外での増収を米国に還流させるという方向性は最初から公表されていたが、還流の仕組みが「HHSへの分配」であることや契約期間、分配が純価格の上昇による純増収であることなどは今回初めて明らかになったと思われる。

https://www.fiercepharma.com/pharma/new-mfn-deal-details-reignite-concerns-trumps-pricing-policy-favors-pharma

今後訴訟で黒塗り部分のさらなる開示が求められるとされており、その動向が注目される。