2026年9月29日、大阪大学発のベンチャー、クオリプスは、iPS細胞から作った心筋細胞シートリハートを重症心不全患者に移植したと発表した。9月1日に公的医療保険が適用されてから、初めての移植となる。iPS細胞由来の再生医療等製品の保険適用は住友ファーマのアムシェプリに続いて2例目で、8人の臨床試験をもとに条件・期限付きで承認されていた。
クオリプスの株価は、発表翌日の9月30日にストップ高の6,640円(1,000円高)をつけている。

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001726219.pdf

移植を受けたのは重い心不全の50代の女性で、手術は大阪けいさつ病院で約50分かけて行われた。術後の容体は安定しており、順調に回復すれば2週間程度で退院できるとされている。執刀医師は大阪けいさつ病院の総長で、クオリプスの取締役でもある澤芳樹先生 (大阪大学特任教授)。
リハートは、健康なドナーのiPS細胞から作った心筋細胞をシート状にした再生医療等製品で、対象は、薬物治療や侵襲的治療を含む標準治療で効果が不十分な、虚血性心筋症による重症心不全。全身麻酔下で左胸を開く手術を行い、心臓の表面に当該製品を貼り付ける。その結果、移植した心筋細胞の表面からサイトカインや成長因子などが分泌され、血管新生の促進や線維化の抑制によって心筋の状態が改善し、心機能や運動耐容能の改善・維持が期待されている。他家(他人の細胞を移植する)のため、移植の翌日から90日間は免疫抑制剤を投与することとなる。

2026年9月29日:再生医療が臨床の「現実」となった日(クオリプス発表・各社報道をもとに筆者作成)
2026年9月29日:再生医療が臨床の「現実」となった日(クオリプス発表・各社報道をもとに筆者作成)

リハートは2026年2月の薬事審議会の部会で、住友ファーマのパーキンソン病治療製品アムシェプリとともに承認が了承されており、3月6日に条件・期限付きで製造販売承認を取得・7月22日に中医協が保険適用を了承・9月1日に保険適用となっている。

なお、アムシェプリは5月20日に保険適用され、1例目の移植は10月に京都大学医学部附属病院で予定されている。

リハートの承認根拠となる重症心不全の患者8例を対象とした多施設共同国内臨床試験では、主要評価項目である移植後26週の心エコー図検査による左室駆出率(LVEF)は、8例中2例で5%以上改善した。
移植後52週の副次評価項目では、運動能力の指標である最大酸素摂取量(Peak VO2)が7例中4例で10%以上改善し(欠測1例)、症状の重さを示すNYHA心機能分類は8例中8例で1度以上改善した。CT検査による左室駆出率は、6例中2例で5%以上改善した(欠測2例)。中医協資料ではこれらをもって有効性を推定できる一定の基準を満たしていると判断したとしている。
安全性では、死亡率は0%だった(移植後3年が5例、移植後5年が3例)。iPS細胞による腫瘍化のリスクについては、未分化の細胞を取り除く製造工程を設けており、現時点で本品が原因の腫瘍化は認められていないとされている。

臨床試験と使用成績調査:主要評価項目が異なる(中医協資料をもとに筆者作成)
臨床試験と使用成績調査:主要評価項目が異なる(中医協資料をもとに筆者作成)

保険償還価格は5,320万円。原価計算方式で市場性加算(Ⅰ)10%が加算係数1.0で加えられている。
市場規模の予測は、推定適用患者数が初年度に690人、ピーク時の10年度に使用患者数96人、予測販売金額51.1億円である。
条件・期限付き承認となっているため、今後リハートは7年間で外部対照との比較に基づいて有効性を検証的に評価する使用成績調査を全例調査で行う。目標症例数は75例となっている。主要評価項目は52週時点の最大酸素摂取量と左室収縮末期容積係数の組み合わせとなる。期限内にリハートを使える施設は、全国で20施設となる予定。

先行したテルモのハートシートは患者自身の骨格筋から採取した細胞を培養してシート状にして心臓に貼る製品であったが、2015年9月に条件・期限付き承認制度の適用となったが症例が思うように集まらず、2018年に期限が3年間延長された。その後2023年9月に正式承認を申請し、移植した患者49人のデータを提出したが、有効性の基準を達成できなかったとして認められず、販売終了となっている。
これもテルモと大阪大学澤先生の共同開発であったため、リハートは、ハートシートと同じ病気を対象に、同じ医師が関わって再度挑戦することとなる。

同じ病気を対象にした2つの細胞シート:ハートシートとリハート(中医協資料・各社報道をもとに筆者作成)
同じ病気を対象にした2つの細胞シート:ハートシートとリハート(中医協資料・各社報道をもとに筆者作成)