2026年6月3日に放送されたNHKクローズアップ現代が、再生医療の光と影というテーマで特集を組んだ。(6/10まで下記URLから視聴可能)。
光はiPS細胞などがもたらす新たな治療選択肢への希望で、影は自由診療の再生医療クリニックで法令違反が相次ぎ、行政処分や死亡事案まで起きているという内容。番組では、国に届け出た計画にない薬を併用していたクリニックの事例や、患者の安全を守るはずのチェック機能が働かない実態が示された。
再生医療と一口に言っても、その対象は幅広く、パーキンソン病のような重い疾患から、毛髪再生やシワ改善のような美容目的まで含まれる。番組内では保険診療などで行われているのは全体の約1%にすぎず、残り約99%は自由診療だと述べられている。
そもそも再生医療の自由診療は他の自由診療領域(例えば美容治療など)と異なり、承認治療とは別の法規制が制定されている。
薬機法で承認される再生医療は「再生医療等製品」と定義され、治験を経て有効性・安全性を確かめ、承認し、保険収載に至る。たとえ早期の条件及び期限付き承認であっても、有効性が推定できることが前提になる。
もう一方が、自由診療向けの再生医療等の安全性の確保等に関する法律(2014年施行)となる。通常「安確法(あんかくほう)と呼ばれる。正式名称は。こちらは製品ではなく、医療機関が行う“医療技術の提供”そのものを規制する。

安確法は、有効性の証明を提供の要件にしていない。
NHK番組によればこの法律は2010年の死亡事故を一つの契機に、安全性の確保を重視して作られている。「医師の性善説」を大前提にしており、医療の内容を直接規制する訳ではなく、使用までのプロセスを規制する。委員会の審査を受け、国に届け出て、その計画どおりに実施する必要がある。
具体的には、再生医療をリスクに応じて第1種(iPS・ES・他家細胞・遺伝子導入など)、第2種(培養した自家幹細胞など)、第3種(PRPなど)に分け、それぞれ国が認定した委員会の意見を聴いたうえで、提供計画を厚生労働大臣に提出して実施する。計画を出さなかったり、計画に記載の内容と異なる治療を提供すれば法律違反となる。
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000565836.pdf
この計画において有効性の証明はそもそも要件ではない。また、委員会の審査は主に書類ベースで医療機関への立入権限がないため、計画と異なる実態(番組の事例では、計画に記載のない薬の併用)を見抜くことが難しい。さらに、番組によれば全国に166ある委員会のなかには、専門外とみられる領域の計画を、少数の専門家が幅広く審査しているケースがある。そして、細胞の加工受託・販売を行う企業が委員会の運営に関与する利益相反の例もあると指摘されている。
自由診療の再生医療は、自国では受けれない(あるいは制限がある)韓国や中国からの患者も多く訪れている。
番組によれば韓国には日本のような自由診療の枠組みがなく、有効性・安全性が未確立の再生医療は国が直接審査することが条件とされる。中国では、研究の枠を超えた“治療”としての提供は原則認められていない。
そのため、昨年から今年にかけて日本で再生医療を受けた外国籍の女性が亡くなったニュースなどは日本全体の医療ブランドへの信頼が落ちるという懸念が指摘されている。
これらの対策として、日本再生医療学会の西田理事長は調査委員会の設置と認定制度の抜本的な見直しに言及している。
さらに学会が検討を進めるのが「検証型診療」であり、自由診療を行った医療機関が治療成績を学会のデータベースに登録し、外部から確認できるようにする仕組みを整えている。これにより治療前のエビデンスの有無と、治療後のデータ蓄積・検証可能性をチェックすることが可能になる。ただ、この検証型診療に登録・参加すること自体が新たなお墨付きのように使われてはいけないという点も指摘されている。
自由診療の再生医療は明確なエビデンスが構築されている訳ではなく、医療提供側の性善説に支えられる部分が大きい。そのため、営利インセンティブがある中でいかに有効性と安全性を担保していくかが重要となっている。