2026年7月10日、首相官邸で「創薬力向上のための官民協議会」が開かれた。高市早苗首相は国内外の企業に投資を呼びかけ、国内企業から数兆円規模、外資系企業からも継続投資の表明があったと述べている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA107K30Q6A710C2000000/
本会議に提出されている資料は公開されているため、それも踏まえて興味深い点について述べてみたい。
https://www8.cao.go.jp/iryou/kanmin_kyogikai20260710.html
まず薬価やMFNの影響について。PhRMA (米国研究製薬工業協会)の五十嵐啓朗氏の提出資料によれば、革新的新薬への支出割合を対GDP比で見ると、日本は0.40%、米国は0.78%と、日本は米国のおよそ半分の水準にとどまる。

一方で、社会保障維持のための費用削減は薬価に過度に依存していると指摘しており、削減の70%や薬価改訂によるものとなっている。

これらを踏まえ、MFNへの対応として下記の薬価制度改革が提言されている。
· 特許期間中の医薬品を毎年の薬価改定の対象から除外すること
· 市場拡大再算定による薬価引き下げの廃止
· 費用対効果評価の拡大の取りやめ
· そして特許医薬品の初期薬価算定ルールを、購買力平価(PPP)調整後で米国並みの水準に改める改革
個人的には最後の米国並みの水準に求める改革が最も難しいであろうと思う。

一方で、この外圧を踏まえた日本市場の予測について日本製薬工業協会(製薬協) 宮柱明日香氏の資料では三つのシナリオを示している。
過去5年間(2021〜2025年度)に日本で承認された新規有効成分含有医薬品(NME)226件のうち、米国政府とMFNで合意した17社が、実に40%を占めるという。そのためMFNの影響が新薬の日本での発売に与える影響は大きい。
現状のトレンドをそのまま延長する「現状投影ケース」では、2040年の国内医薬品市場は18.4兆円(2024年時点11.5兆円)に成長する。これに対し、MFNの影響で日本市場の相対的魅力度が低下し、2027年以降、革新的新薬の上市機会が現状投影対比で最大60%下振れると仮定したリスクケースでは、市場は12.5兆円にとどまり、現状投影対比で6.0兆円縮小する。逆に、薬価引き下げ政策を凍結し、革新的新薬の価格を平均2.0倍まで段階的に引き上げる「成長投資ケース」を実現できれば、市場は30.5兆円に達し、現状投影対比で12.1兆円の上振れが見込めるとしている。

法政大学経済学部の菅原教授の資料によれば、日本が全方位で米国型の巨大な創薬エコシステムを再現するのは非現実的だとして、iPS細胞・再生医療、核酸医薬、放射性医薬品、精密医療、希少疾患、国際水準の臨床試験など、日本が比較優位を持てる領域に官民の資源を集中すべきとしている。つまり、日本を「日本市場に上市するための国」ではなく「日本を通じてアジア、さらに世界へ展開できる創薬・開発・製造・規制のプラットフォーム」として位置づけるべきだと提言している。
厚生労働省が業界団体を通じて実施したアンケートによれば、製薬企業の対日投資額は2024年度実績で内資3.1兆円・外資4,700億円の合計3.6兆円、2025年度予算で合計3.1兆円、そして今後5年間の見込み額は合計13.1兆円(内資12.6兆円・外資5,100億円)に達するとしている。

制度側の対応についても進捗が評価されている。令和8年度薬価制度改革では、市場拡大再算定の類似品への適用(いわゆる共連れ)の廃止、国内診療ガイドラインで標準的治療法と評価された場合の加算新設、新薬収載時の市場性加算と小児加算の併加算容認などが決まった。ただし、希少疾病用医薬品の指定件数は前年度比280%増、国際共同治験の初回治験計画届は150%増と成果が出ている一方、ドラッグ・ロスを生じている86品目のうち、開発着手にこぎつけたのは16品目にとどまり、12品目は依然として必要性を調査中のままだ。創薬エコシステムとしての東京の国際順位は19位で、2028年までに世界10位以内という目標にはなお距離がある。
