2026年8月24日の日経新聞の記事によると、スイスにおいて過去1年半に登場した革新的な新薬のうち、約3割が国内での保険償還を申請されなかったと報道されている。背景に米国のMFN政策があるとし、スイスはMFN参照国の一つであるためそれが影響しているとされている。
ちなみに日経新聞ではこれを“ドラッグロス”と述べているが、承認はされているが収載はされていないという話なので、厳密にはドラッグロスではないと思われる。(アクセスの問題)
記事の元情報はスイス研究開発型製薬工業協会Interpharmaが2026年8月13日に公表した調査で、会員企業を対象に実施された匿名調査(anonymized and aggregated survey)となっている。
調査によると2025年1月から2026年6月までの18か月間に承認された新規革新的医薬品22品目のうち、Interpharma会員企業は7品目について、スイスの保険償還リスト(Specialties List)への収載を申請しなかった。理由としてMFN体制が挙げられている。ちなみに、この7品目とは別の3品目については規制当局であるSwissmedicへの承認申請すら行われていない。
Specialties Listは、スイスの強制加入型健康保険が償還する医薬品を定めたリストで、ここに収載されなければ保険による広範な患者アクセスは得られない。同時に、この収載時に決まる価格が、MFNでも参照されうる公式な価格となる。
今回Interpharmaが約3分の1と表現しているのは、償還申請されなかった7品目を22で割った数字(約31.8%)となる。

米国のMFN政策はスイスを参照国の一つに指定しているため、Specialties Listに低い償還価格で収載されれば、その価格が米国の価格に影響する可能性がある。Interpharmaは”米国にとっての参照国であり、購買力調整後の革新的医薬品の価格が比較的低いスイスは、とりわけ脆弱である(As a reference country for the US with comparatively low purchasing-power-adjusted prices for innovative medicines, Switzerland is particularly exposed.)”と述べている。
ただし、スイスにおける新薬アクセスの問題は、MFNによって始まったものではなく、どちらかといえばMFNにより悪化したとされている。
その根拠としてEFPIA Patient W.A.I.T. Indicator(IQVIAがEFPIAの委託を受けて毎年実施している欧州各国における新薬アクセスの比較指標)が引用されている。2026年5月19日に公表された最新版によると、スイスにおいてSpecialties Listを通じた「完全なアクセス」の割合は、2018年の64%から2025年には50%へと低下している。一方、個別症例ごとの償還という「不平等なアクセス」は、同じ期間に15%から27%へとほぼ倍増している。そして、ドイツと比較するとスイスの患者が利用できる新しい革新的医薬品は、依然として約半分の水準にとどまるとされる。そのため、MFNの影響が示唆される以前からスイスにおけるアクセスの問題は顕在化していた。

今回のプレスリリースでは”MFNの影響をめぐるあらゆる憶測は終わりを告げる。その影響は既に測定可能であり、スイスにおける革新的医薬品への平等なアクセスに対する深刻な脅威となっている。(With this, any speculation about the effects of the MFN regime comes to an end: its im-pact is already measurable and poses a serious threat to equal access to innovative medicines in Switzerland.)”と述べられている。
そしてスイスには、医療提供、質、そしてイノベーションのコストという側面を等しく考慮した、MFNと両立可能な価格設定システムが必要であると述べられており、製薬協やPhRMAの主張する方針と同様の主張が行われている。