2025年6月に英国政府は新規医薬品の売上に対する払い戻し(リベート)率を15.5%から31.3%へ引き上げる方針を示したことにより、複数の大手製薬企業が英国での研究開発投資を撤回する事態となっていた。そこから1年が経ち、FierceBiotechが当時撤退した各社に問い合わせて姿勢に変化があったかを確認している。
https://www.fiercebiotech.com/biotech/year-big-pharmas-pull-back-uk-has-anything-changed
上記の払い戻し率は国民保健サービス(NHS)に対して製薬企業が支払うもので、率を上げるということはすなわち製薬企業にとっては実質的な値引きとなる。
この発表ののちに投資計画を撤回した例として、Merck & Co.はR&D事業を英国から完全に引き揚げてロンドンに計画していた13億ドルの研究センターを中止、AstraZenecaは3億ポンド(4億400万ドル)の投資プログラムを凍結、Eli Lillyは、同社のバイオテック・インキュベーター事業Gateway Labsの欧州初拠点をロンドンに置く計画を保留、Sanofiは英国での医薬品研究開発について実質的な投資は一切検討しないと表明するなどの事態となっていた。

2025年秋のメガファーマによる英国からの投資撤退:Merck・AstraZeneca・Eli Lilly・Sanofi等の動き
2025年秋のメガファーマによる英国からの投資撤退:Merck・AstraZeneca・Eli Lilly・Sanofi等の動き(筆者作成)

AstraZenecaとMerckの代表は英国議会に呼ばれ議員から追及を受けたが、その中でAstraZenecaの代表は英国を「イノベーションを前進させる場所として、ますます困難になっている(U.K. is an increasingly challenging place, actually, to bring forward innovation)」と述べている。
https://www.fiercebiotech.com/biotech/merck-executes-its-own-brexit-moving-all-rd-operations-out-uk
https://www.fiercebiotech.com/biotech/astrazeneca-pauses-271m-expansion-uk-latest-big-pharma-buck-britain
https://www.fiercebiotech.com/biotech/lilly-picks-uk-first-european-gateway-lab-part-364m-investment-plan
https://www.fiercebiotech.com/biotech/sanofi-becomes-latest-pharma-hold-fire-uk-rd-funding-fallout-continues
https://www.fiercebiotech.com/biotech/pharma-execs-cite-challenging-environment-during-grilling-uk-lawmakers-over-rd-pullback
そこからこの1年で、英国の医薬品価格制度は複数の点で変更されており、2026年4月に成立した米英通商合意では英国から米国へ輸出される処方薬が3年間関税免除となっている。
あわせて、VPAG(ブランド医薬品の価格は企業が自由に設定できるが、NHS全体の医薬品支出に年間の伸び率上限を設けて上限を超えた分は企業が政府へ払い戻す仕組み)の払い戻し率について、新薬については2026年から2028年にかけてNHSへの純売上の15%を超えないという上限も設定された。

新薬の払い戻し率は、2024年の15.1%から2025年に22.9%へ急上昇していたが、2026年は14.5%となっている。VPAGに参加しない企業は法定スキームに入ることになり、2026年の払い戻し率は24.3%となる。

VPAG 2026の還付率:基本14.5%+投資プログラム1.0%=実効15.5%、法定スキームは24.3%
VPAG 2026の還付率:基本14.5%+投資プログラム1.0%=実効15.5%、法定スキームは24.3%(筆者作成)

https://www.abpi.org.uk/media/news/2025/december/vpag-payment-rate-for-newer-medicines-will-be-145-in-2026/
https://www.emjreviews.com/emj-gold/news/vpag-2026-rate-set-at-14-5-post-us-tariff-deal/
https://www.chasepeople.com/resources/blog/vpag-2026-a-deal-is-done-but-the-hard-work-starts-now
https://www.fiercepharma.com/pharma/can-trumps-deal-uk-become-model-similar-drug-price-agreements
** **
費用対効果についても、NICEの基準閾値が1質調整生存年(QALY)あたり2万〜3万ポンドからおよそ2万5,000〜3万5,000ポンドへ引き上げられたため、年間3〜5剤の革新的医薬品または新規適応が追加でNHSに推奨されうると試算されている。
https://www.pharmaceutical-technology.com/analyst-comment/win-pharma-in-uk/

撤退した4社の1年後:AstraZenecaは建設を再開、Merckは情報なし、Lilly・Sanofiは見直し中
撤退した4社の1年後:AstraZenecaは建設を再開、Merckは情報なし、Lilly・Sanofiは見直し中(筆者作成)

以上の背景も踏まえてFierceBiotechはが取材した結果によると、AstraZenecaだけが姿勢を変化させている。同社は4月末までに、本拠地である英国ケンブリッジでの2億ポンド(2億7,100万ドル)の建設プロジェクトを再開すると発表した。
一方で他の企業は、姿勢の変化を認めておらず、Merck & Co.は英国での計画について共有できる最新情報はないとFierceに回答している。
Eli Lillyは変化を前向きに捉えているものの、英国のGateway Labs拠点への投資計画については検討中としている。
Sanofiも英国を含む主要市場の投資対象としての魅力を定期的に評価していると述べるにとどまっている。
https://www.fiercebiotech.com/biotech/astrazeneca-restarts-300m-investment-england-merck-not-budging