何が起きたか
大塚メディカルデバイス(Otsuka Medical Devices Co., Ltd.)の完全子会社である米レコル・メディカル(Recor Medical, Inc.、カリフォルニア州パロアルト)は2026年10月15日、同社の超音波式腎デナベーション(uRDN)システム「Paradise」が、TIMEの「Best Inventions of 2026」の医療・ヘルスケア(Medical and Healthcare)部門に選ばれたと発表した。
Paradise uRDNシステムは、生活習慣の改善と降圧薬では血圧を十分に管理できない、コントロール不良および治療抵抗性の高血圧患者を対象とした、デバイスによる低侵襲な治療法である。
TIMEは25年以上にわたり、人々の生活や働き方、可能性のとらえ方を変えるイノベーションを年次の「Best Inventions」リストで表彰してきた。本年のリストは300件の革新的な製品・技術で構成される。TIMEは世界中の編集者や特派員からの推薦と、オンラインでの応募を通じて候補を集め、ヘルスケアやAIといった成長分野に特に注目したうえで、独創性(originality)、有効性(efficacy)、野心(ambition)、インパクト(impact)などの要素で各候補を評価したとしている。
レコル・メディカルの最高経営責任者(CEO)であるHelen Reeve-Stoffer氏は、「TIMEのBest Inventionsの一つに選ばれたことは大変な名誉であり、コントロール不良の高血圧に対する新しい治療アプローチを前進させるという我々の取り組みが評価されたものだ」とコメント。そのうえで「『サイレントキラー』としばしば呼ばれる高血圧は、世界的に見てヘルスケアで最も差し迫った課題の一つであり続けている。治療されないままであれば、心臓発作や脳卒中を含む多くの重大な心血管系の問題につながり得る。Paradise uRDNシステムは、血圧コントロールに苦しむ患者に対し、意味のある持続的な血圧低下をもたらす臨床的に実証された選択肢を医師に提供する」と述べた。
技術と、これまでの承認の経緯
Paradise uRDNシステムは、腎動脈の周囲にある交感神経を除神経(denervation)することで、高血圧につながり得る神経の過活動を抑え、血圧を下げるよう設計された超音波ベースの腎デナベーション技術である。主腎動脈を通じて、周囲の神経に対し7秒間の360度超音波エネルギーを2回から3回照射する。Paradiseカテーテルには独自の「HydroCooling」システムが搭載されており、手技中にバルーンカテーテル内へ滅菌水を循環させることで腎動脈壁の保護を助ける。
規制面では、同システムは2023年11月に米食品医薬品局(FDA)の承認を取得し、現在、米国で商業的に提供されている。米国での適応は、生活習慣の修正と降圧薬では血圧が十分にコントロールされない高血圧患者における、補助的治療としての血圧低下である。手技に関連し得る有害事象としては、疼痛、血管アクセス部位の合併症、血管攣縮が最も一般的だとされ、効果には個人差があるとされている。
米国以外では、CE 2797マークを取得し、同マークが受け入れられる市場で承認済みの適応に従って販売されているほか、日本でも薬事承認を取得している。
臨床エビデンスとしては、軽度から中等度および治療抵抗性の高血圧患者を対象とした3つの独立したランダム化シャム(偽手技)対照試験で良好な結果が得られている。さらに同社は、欧州連合(EU)と英国におけるGlobal Paradise System(GPS)レジストリ、および米国でのUS GPS承認後試験を通じて、実臨床エビデンスの創出を進めている。
この受賞が持つ意味
今回の選出は、規制当局の承認や保険償還とは直接関係しない、一般メディアによる表彰である。それでも、医薬品でも従来型の治療でも患者ニーズを満たせない領域に新たな治療選択肢を提供するという大塚メディカルデバイスの事業方針にとって、デバイス治療としての腎デナベーションが「ヘルスケア分野の注目イノベーション」として広く提示された意味は小さくない。高血圧は服薬アドヒアランスの問題を抱えやすい疾患であり、薬剤に依存しないデバイス治療の認知度向上は、医師や患者の間での治療選択の議論に影響し得る。
また、同社が3本のシャム対照ランダム化試験に加えて、EU・英国と米国の双方で実臨床データの収集を継続している点は、承認取得後のエビデンス構築を重視する姿勢を示している。大塚メディカルデバイスは東証上場の大塚ホールディングス(JP 4578)の子会社であり、医薬品を中核とするグループが医療機器領域で獲得した国際的な評価という位置づけにもなる。