何が発表されたか

塩野義製薬は2026年10月21日、米国ワシントンD.C.で2026年10月21日から24日の日程で開催される米国感染症学会週間(IDWeek 2026)において、グラム陰性菌感染症治療薬セフィデロコルに関する新たなリアルワールドエビデンスおよび解析データを発表すると公表した。発表は、国際的な後ろ向き観察研究PROVEの米国呼吸器感染症サブグループ解析、サーベイランスプログラムSENTRYのデータを用いた緑膿菌に対する抗菌活性解析、そしてStenotrophomonas maltophilia感染症に関する文献レビューの3件である。

セフィデロコルは塩野義製薬が創製した薬剤で、多剤耐性菌を含むグラム陰性菌の外膜を効果的に通過して抗菌活性を発揮する。日本・米国・欧州・台湾・韓国を含めた複数の国と地域で販売されており、WHOの必須医薬品リストにも掲載されている。

PROVE研究:早期投与で高い臨床効果の傾向

PROVE研究から得られた米国の呼吸器感染症患者を対象とするサブグループ解析では、グラム陰性菌による呼吸器感染症に対してセフィデロコルを投与された266例の患者背景と臨床効果が評価された。このうち89.5%は、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌による感染症だった。

臨床効果が認められた割合は全体で76.7%。投与開始のタイミング別にみると、原因菌および薬剤感受性が判明した後に投与を開始した患者では78.9%、原因菌の同定前に経験的治療として投与を開始した患者では80.0%に臨床効果が認められた。これに対し、先行する抗菌薬治療が奏効しなかった後に救済療法として投与した患者では63.4%にとどまった。

患者背景は重症例が中心である。解析対象患者の74.8%が集中治療室(ICU)に入室し、65.4%が臓器サポートおよび/または人工呼吸管理を受けていた。35.0%が慢性肺疾患を有し、96.6%がカルバペネム耐性グラム陰性菌感染症のリスク因子を1つ以上有していた。主な原因菌は緑膿菌(34.2%)とアシネトバクター・バウマニ(19.2%)で、感染症の66.5%は単一菌によるものだった。入院期間の中央値は42.0日、セフィデロコルの投与期間の中央値は9.0日である。

塩野義製薬は、救済療法として使用した場合と比較して、治療経過の早い段階で使用した場合に臨床効果が高い傾向が認められたとしている。

SENTRY解析と文献レビュー

SENTRY(SENTRY Antimicrobial Surveillance Program)は、世界各地の病原菌の流行状況と抗菌薬感受性を長期的に監視しているサーベイランスプログラムである。今回の解析では、2020年から2024年にかけて米国および欧州の人工呼吸器関連肺炎(VAP)患者から収集された緑膿菌分離株約1,400株を対象に、セフィデロコルと臨床で広く使用されている4種類のβ-ラクタム系抗菌薬/β-ラクタマーゼ阻害薬(BL/BLI)配合剤の抗菌活性が比較された。

調査対象となった緑膿菌全体に対するセフィデロコルの感受性率は、CLSI基準で99.5%、EUCAST基準で98.9%、FDA基準で97.9%。他のBL/BLI配合剤に非感受性を示す緑膿菌においても91.4〜96.0%と高い値を示した。メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を産生する高度耐性菌を含むサブグループでもセフィデロコルは高い感受性率を維持した一方、比較対象のBL/BLI配合剤の感受性率はCLSI基準で30.4〜41.8%にとどまった。

もう1件は、S. maltophilia感染症に対するセフィデロコルの治療成績について、45件の公表症例報告およびコホート研究を体系的に調査・分析した文献レビューである。症例報告に記載された患者49例のうち、35例(71.4%)で臨床効果が認められた。S. maltophiliaは多くの抗菌薬に対して本質的な耐性を有する日和見感染菌で、治療選択肢が限られる重症患者や免疫抑制状態にある患者において、罹患率や死亡率の上昇に関連することが知られている。

業界にとっての意味

米国感染症学会(IDSA)の「2026年AMRガイダンス」では、侵襲性S. maltophilia感染症に対する優先的な治療選択肢としてセフィデロコルが挙げられている。ただし同ガイダンスは、この推奨が主として動物モデルのデータに基づいており、臨床転帰に関するデータは依然として限られているとしている。今回の文献レビューは、この臨床エビデンスの空白を埋める方向の報告と位置づけられる。

PROVE研究のサブグループ解析が示した投与タイミング別の差も、実臨床での使い方に関わる論点である。救済療法としての63.4%に対し、経験的治療としての開始が80.0%、感受性判明後の開始が78.9%という数値は、新規抗菌薬を「最後の手段」として温存する運用と、臨床効果の観点から早期に使う判断との間の整理を求めるデータといえる。

塩野義製薬は、取り組むべきマテリアリティとして「感染症の脅威からの解放」を特定している。セフィデロコルについては、低・中所得国でのアクセス改善に向け、The Global Antibiotic Research and Development Partnership(GARDP)およびClinton Health Access Initiative(CHAI)との3者連携契約を通じた取り組みも進めている。薬剤耐性(AMR)は「サイレントパンデミック」と呼ばれ、2021年には世界中で114万人が死亡したと推定されており、国際的な連携がなければ2050年までに3,900万人以上が命を落とす問題に発展するとの予測がある。