仏サノフィは2026年10月30日、第3四半期(7〜9月)の決算を発表した。売上は144.44億ユーロ(約2兆6,430億円)で、為替の影響を除いて前年同期比14.3%増え、通期の売上と利益の予想を今年2回目となる上方修正している。牽引役はアトピー性皮膚炎などの治療薬デュピクセントで、売上は57億ユーロ(約1兆430億円)、会社全体の売上の約4割を占めるまでになっている。
Endpoints Newsの報道によると、同社のロジェCFOは記者団に対し、トランプ米政権のMFNのもとでも欧州での新薬の発売は控えず、その代わりに欧州で従来より高い価格を求める可能性があると語っている。
なお、本記事でのユーロ換算レートは、サノフィが決算発表文で開示した7〜9月の平均レート(1ユーロ=183.257円)を基に、1ユーロ=183円とする。
https://www.sanofi.com/en/media-room/press-releases/2026/2026-10-30-06-30-00-3392028
https://endpoints.news/sanofi-may-seek-higher-european-drug-prices-not-withhold-launches-under-trump-deal/
1 決算の概要
7〜9月の売上は144.44億ユーロ(約2兆6,430億円)の地域別売上は米国が86.03億ユーロ(約1兆5,740億円)で23.9%増えた一方、欧州は25.79億ユーロ(約4,720億円)で0.9%減、その他の地域は32.62億ユーロ(約5,970億円)で5.7%となっている。
営業利益は54.30億ユーロ(約9,940億円)で19.7%増え、対売上率は37.6%に上がっている。研究開発費(18.49億ユーロ(約3,380億円))と販管費(23.09億ユーロ(約4,230億円))はいずれも前年並みで、売上が上がった分、占める営業費用の比率は33.2%から28.8%に下がっている。
通期予想は、売上を十数%台前半の増加に引き上げており、CFOによると13〜15%を意味すると説明されている。ロイター通信によると、従来の売上予想は10%増で、上方修正は今年2回目。なお、7〜9月の売上の伸びには、米国での割引・リベートの見積もりの見直しなど一時的な要因が含まれ、それを除いた実質の伸びは約12%だとしている。
2 売上の4割をデュピクセントが占める
デュピクセントの7〜9月の売上は56.87億ユーロ(約1兆410億円)で34.8%増え、2四半期続けて50億ユーロ(約9,150億円)を超えた。地域別では、米国が43.76億ユーロ(約8,010億円)で40.2%増、欧州が5.88億ユーロ(約1,080億円)で16.1%増、その他の地域が7.23億ユーロ(約1,320億円)で22.6%増となっている(図1)。その他の地域では日本、カナダ、ブラジル、中国が伸びており、治療を受けている患者は世界で150万人を超えたとされる。

会社全体の売上に占めるデュピクセントの割合は、前年同期の33.4%から39.4%に上がっており、リジェネロンと共同で開発・販売しており利益シェアモデルのため、3Qにサノフィがリジェネロンに支払った利益は22.30億ユーロ(約4,080億円)で、前年同期の14.87億ユーロ(約2,720億円)から大幅に増加している。
新製品の医薬品(血友病治療薬ALTUVIIIO、全身性肥満細胞症治療薬Ayvakit、慢性移植片対宿主病治療薬Rezurockなど)は13.90億ユーロ(約2,540億円)で31.4%増加している一方で、ワクチンは31.85億ユーロ(約5,830億円)で6.6%減少している。

会社は2030年の売上見通しとして、デュピクセント約250億ユーロ(約4兆5,750億円)、新製品約100億ユーロ(約1兆8,300億円)、ワクチン約90億ユーロ(約1兆6,470億円)を提示している。一方、デュピクセントの米国物質特許は2031年3月に切れる想定であるが、関連する特許群の満了は2031〜2045年に分散しており、会社は物質特許の満了後もデュピクセントに関する発明を守るために特許を強く主張する方針であるとしている。
3 欧州で「発売を控える」か「価格を上げる」か
MFNの影響で、米国の価格を守るために欧州の価格を上げられなければ欧州での発売を遅らせたり見送ったりする、選択肢がこれまで議論されている。BioSpaceは4月、米Insmedが欧州で承認済みの気管支拡張症治療薬Brinsupriの発売を保留していると報じており、Tech Timesは、GlobalDataの調査として、2025年5月の大統領令の後10か月でEUでの新薬の発売が35%減ったと伝えている。
一方で、Endpointsによると、ロジェCFOは10月30日、記者団に対し、欧州全域で新薬の承認申請と発売を続けると述べている。そのうえで「唯一の違いは、その結果として、当初の想定より少し高い価格で発売する可能性があることだ」と語り、米国の価格へのネガティブな影響を避ける方針を明確にしている。

他社の姿勢は異なっており(図4)、Endpointsによると、アストラゼネカのソリオCEOは、新薬2品の欧州での計画へのMFNの影響を問われ「まだ答えにくい (It’s hard to answer yet)」と回答しており、価格の問題が解決しなければすべての国で発売するには「確実に緊張が生じる (certainly tension)」とした。ノバルティスのナラシムハンCEOは10月27日、政府が高い価格を払わない場合は、欧州で公的保険を通さない自費市場で発売することもあり得ると述べている。
サノフィにとって、欧州は2025年の売上の約21%、米国は約51%を占めている(説明会資料)ため、今後果たして欧州でのLaunch戦略をどうしていくかが注目される。