2026年6月29日、医学誌New England Journal of Medicine(NEJM)が、Amgenの希少疾患薬Tavneos(一般名avacopan。日本ではキッセイ薬品工業が販売)の承認根拠となっている臨床試験の論文を撤回した。
撤回されたのは、2021年にNEJMに掲載された第Ⅲ相試験「ADVOCATE」の論文。NEJMによれば、撤回は著者のうち2名(学術側の研究者)からの要請を受けたもの。
撤回の根拠は、米FDAの調査結果となっており、試験データベースが確定した後に9例の患者の結果が変更され、かつ一部の研究者が盲検解除(どの患者が実薬を投与され、どの患者がそうでないかを知らされていた)状態にあったと指摘した。これらは論文に開示されておらず、適切な研究行為に反するとされた。
Tavneosは、ADVOCATE試験(331例、国際143施設)の結果をもとに、2021年10月にFDAが承認した。翌2022年にはEUでも承認され、AmgenがChemoCentryxを37億ドルで買収している。日本でもキッセイ薬品工業により同年に発売された。
作用機序としては経口のC5a受容体(C5aR/CD88)阻害薬で、適応はANCA関連血管炎(AAV)。従来はステロイドと免疫抑制薬で治療されてきたが、ステロイドの長期使用は有害事象が懸念されるため、Tavneosはステロイドを減らせる新しい選択肢として期待されていた。
今年3月に薬剤性肝障害76例・うち8死亡との関連が示され、4月にはFDAの医薬品評価研究センター(CDER)が承認取消を正式に提案している。6月26日にはEUのCHMPが販売承認の取消を勧告し、そして6月29日、NEJMが論文を撤回した。Amgenは取消に反対してヒアリングを求めており、その提出期限は7月29日に設定されている。

FDAによれば、承認申請(NDA)には、データベースの確定と盲検解除が「いつ・何回」行われたかに関する事実と異なる記載が含まれていた。そして、元データでは、実薬と既存薬のあいだに寛解の統計的な有意差はなかったが、確定後の再判定を経て有意差ありに変わっていた、FDAは主張している。結果、承認申請に関して“重要な事実についての虚偽の記載”があり、有効性の確たる証拠(substantial evidence)が示されていなかった、と結論づけている。
日本ではTavneosをキッセイ薬品工業が販売してきたが、FDAの問題とは別に安全性の問題が顕在化している。2026年5月15日、Tavneos服用患者で胆管消失症候群(VBDS)を含む重篤な肝機能障害が発現し、国内で死亡例が20例報告されたと公表し、当面の間新規患者への投与を控えるよう医療機関に求めている。5月21日には厚生労働省が、安全性速報(ブルーレター)の発出を指示している。
まとめると、米国ではFDAが取消を提案する一方、Amgenは便益がリスクを上回ると主張して販売を続け、ヒアリングで争う。欧州ではCHMPが取消を勧告し、販売元のCSLは新規投与を停止した。日本では承認は継続しているが、キッセイの新規投与差し控えと厚労省のブルーレターで、実質的な使用抑制が進んでいる。

そして、今回承認の根幹となる臨床試験の論文が撤回されたことで、より難しい方向に進んでいくことが予想される。